31日投開票の衆院選が19日、公示された。衆院選に先立ち、与党・自民党では総裁選を実施。「小泉政権以降の新自由主義からの転換」を進め、「新しい日本型の資本主義」を訴えた岸田文雄首相を新たな顔に据え選挙戦に挑む。そんな選挙を識者はどう見ているのか。京都大学大学院の藤井聡教授(53)は経済政策一本に絞り、「緊縮か反緊縮か」を争点に挙げた。


 日本が本当に再生されるかどうか。そのためには最も重要なのが経済政策です。軍事、教育、医療、コロナとすべて大事なのは当然ですが、あらゆる行政はカネがないとどうにもなりません。富国がないと何もできないのです。今はものすごく貧困化が進んでおり、政治家は与野党を問わず、日本の経済力再生のために一意専心、挙国一致で取り組まないといけない。それを実現できる政治家、政治勢力が勝利することを祈念してますね。

 私は消費税減税が重要と認識しています。自民党内には財務省の矢野康治事務次官の主張(※月刊誌「文藝春秋」で与野党の政策論争を「バラマキ合戦」と批判。「このままでは国家財政が破綻する」と主張した)に賛同するような、減税や積極財政を主張しない緊縮勢力がいる。野党にも一部含まれている。党派を問わず、そういう方々が国民の支持を受ければ「国民は消費税減税は望んでいない」という雰囲気が拡大するリスクがある。そうなると消費税減税が行われず、日本の再生が遅れてしまうことが危惧されます。

 矢野次官の主張は完全な間違いです。なぜなら、財政破綻はしないから。それは財務省も書いている。自国通貨建てである限り、財政破綻しないよう日銀が動くのです。

 積極財政は日本における特殊な事情ではありません。米国ではトランプ前大統領が400兆円を使い、バイデン大統領がさらに400兆円を投じようとしている。ドイツですら緊縮財政の過ちを認め、積極財政に転換した。中国はずっと積極財政派です。その潮流が遅ればせながら日本にも来た。

 自民党総裁選で河野太郎氏が敗れ、積極財政を唱えた高市早苗氏が支援する形で岸田文雄氏が勝った。保守本流の宏池会、昭和自民が令和に復活しようとしている。昭和時代はみんな積極財政論者で、日本は高度成長、所得倍増を成し遂げ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」に昇りつめた。そんな伝統的自民を前面に押し出したのが高市さんで、その次が岸田さんでした。ですので岸田内閣には、財政に対する態度について懸念がありますが、一定の評価はできます。

 一方、野党第1党の立憲民主党が、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の凍結と消費税5%への減税で、岸田首相が主張する「分厚い中間層」「所得倍増」を実現する具体的な手法を示した。立民は民主党時代、ゴリゴリの緊縮派の政党だったのに転換した。国民民主党も類似したことを言っており、一定の評価をしてます。野党でも江田憲司氏や枝野幸男氏も積極財政を主張している。馬淵澄夫氏、玉木雄一郎氏、山本太郎氏と、野党にも積極財政派はかなりいます。

 逆に、これまで新自由主義を推し進めてきた一部の人々や勢力の政治的・政策的主張に対しては私は懐疑的なイメージを持っています。

 こうした中で行われる総選挙。現役官僚がこのタイミングで財政破綻を持ち出したのは、財務省の歴史で最大の汚点で財務省の焦り。馬脚を現したと言えます。今回の選挙で彼らの主張を支持する勢力が勝利すれば、日本が沈没し、世界が破滅に向かいます。失われた30年を経て、元に戻るにはもう間に合わない時期に来ている。

 国民が旧態依然とした認識のまま「改革は優れている」「バラマキはよくない」と判断し、そうした勢力を温存すれば、岸田内閣の足を引っ張ることになり、日本の国益にとっても極めて甚大な問題になる。あえて名前は出さないが、私は党派を超えて積極財政派の人が勝利し、緊縮財政派の人が落選し、積極財政を党として唱える党が勢力拡大するのがいいと思っています。そのあたりを選挙民がどう判断するかが問われている選挙と言えるでしょう。

 右や左、護憲や改憲ではなく、緊縮か反緊縮か。それこそがこの衆院総選挙における最大の争点である、と学者として全国民に訴えたいですね。