勝てるボクサーの共通点とは――。ボクシングのWBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(30=BMB)と東京五輪女子フェザー級金メダルの入江聖奈(21=日体大)の対談後編は、ミットを持った五輪女王が初めて味わう世界王者のパンチを鋭く分析。2人のトークから強いボクサーの“条件”も浮かび上がった。さらにプライベートにまで話は及び、好きな異性のタイプも判明。プロアマ頂上コラボの“最終ラウンド”の模様をお届けする。

 ――拳四朗選手のパンチを受けた感想は

 入江 メチャ、痛い! これがプロのパンチなのですね…。指がKOされそうでした。衝撃が手の甲まで突き抜ける感じで、ジンジンするって感覚を初めて体験しました。それに今まで受けたことない不思議なパンチ。途中から加速する感じで、タイミングそのものが普通の選手と違うんですよ。

 拳四朗 途中から加速? よく僕のジャブは見にくいって言われるけど、そういうことなのかって今日、気付きましたね。

 入江 男子のプロ選手のミットを受けるのは初めて。拳四朗さんが特別なのか分かりませんが、ジャブバックのポジション取りがしっかりサイドにいっていて、すべてに「プロ」がにじみ出ていました。メチャクチャ貴重な経験でした。

 拳四朗 ミスらず普通にミットを受けていたね。見極めがしっかりできていて、タイミングを読むのが速かった。やっぱり(入江は)プロでやれると思います!

 入江 ハハハ、無理ですから(笑い)。

 ――ボクサーに向いている性格はあるか

 入江 多少は意地悪なところがないと勝てないと思いますよ。

 拳四朗 あ、それは絶対にあるね。

 入江 正直な人ほど負けるような気もします。

 拳四朗 相手が嫌がるところを見つけて攻めないといけないからね。

 入江 そうそう!

 拳四朗 たぶん僕らは腹黒同士かも(笑い)。

 入江 ハハハハ。お互いに性格が悪いところあるかも…。

 拳四朗 試合前ってどんな感じなの?

 入江 私は口数が多めでソワソワしちゃうタイプ。拳四朗さんとは正反対だと思います。(試合が)「嫌だ」って言っていますから(笑い)。

 拳四朗 アハハハ! なんで? あんな強いのに…。

 入江 負けた時のことを考えると、やりたくないって思っちゃうんです。東京五輪は死ぬほど緊張したので、あの緊張はもう乗り越えられる気がしない(笑い)。

 拳四朗 えー? でも金メダルを取ったことで自信がついたり、私は最強だって思わないの?

 入江 ないですね。今でも運で金メダルが取れたって思っているので。

 拳四朗 でも、一気に環境が変わったでしょ。

 入江 そうですね。でも、絶対にいつかは忘れられる存在。まだ五輪の余韻が少しあって覚えてもらっていますけど、20、30年後には私が金メダルを取ったことなんて私以外はほぼ忘れている。だから調子に乗れないです。

 拳四朗 すごいな…。メチャクチャ現実的。まだ21歳なのに、ホントしっかりしている。

 ――お互いに好きな異性のタイプは

 入江 私、ずっと言っているんですけど、顔のタイプはえなりかずきさん。優しそうな顔なので。性格で言うと、絶対に車の運転が荒くない人ですね。舌打ちとかしたらもう無理です。運転って性格が出るって言いますよね。あと、年下の店員さんにもちゃんと敬語を使う人がいいです。

 拳四朗 確かにタメ語は嫌やね。僕は家庭的な女性が好きです。自分でも家事はできるんですけど、やってくれたほうが愛を感じますね。あと、あまり怒らない人。自分はケンカしたくないから思ったことを言わず、結構ためすぎちゃうかも。言うタイプ?

 入江 はい、私は言っちゃうタイプです。ため込めないんですよ。

 ――今、特定のパートナーは?

 入江 いません。

 拳四朗 いないです。

 ――これを機に…

 入江 でも、私は(拳四朗が好きな)家庭的なタイプの女の子ではないんです。上京する時、母に「料理ができる男の人を見つけなさいよ」って言われるくらい家庭的じゃないので。たぶん、私では無理です(笑い)。

 拳四朗 ハハハハ。


【入江のカエル愛に拳四朗あ然】

 現在、拳四朗の次戦は“白紙”の状態だ。かねてWBA世界ライトフライ級スーパー王者・京口紘人(28=ワタナベ)との統一戦を熱望していたが、現時点で両陣営の交渉はまとまっていない。対談でこの話題になると、入江は「やっぱり、いちファンとしては拳四朗さんと京口さんの日本人同士の統一戦を見たいです!」と目を輝かせた。

 一方、入江は11月の全日本選手権を最後に競技引退の予定。その後は大好きなカエル研究のため8月に大学院入試を控えており、今回の対談の行き帰りの車内でも専門書で猛勉強していた。このストイックな姿勢に拳四朗は「五輪で金メダルを取って、次はカエルで大学院って…。僕はボクシングしかできないので、本当にすごすぎる」と舌を巻いていた。

 ☆いりえ・せな 2000年10月9日生まれ。鳥取・米子市出身。ボクシング漫画「がんばれ元気」に影響され小学2年で競技スタート。米子西高1、2年生で全日本選手権女子ジュニアの部を連覇、3年生で女子シニアの部で優勝。日体大に進学し、21年の東京五輪フェザー級で日本女子ボクシング史上初の金メダルを獲得。同年11月の全日本選手権も制覇。4年生として出場する全日本選手権(11月)を最後に引退し、大学院へ進学予定。趣味はカエル研究、ゲーム。164センチ。

 ☆てらじ・けんしろう 1992年1月6日生まれ。京都・城陽市出身。名前の由来は漫画「北斗の拳」の主人公。中学3年でボクシングを始め、奈良朱雀高から関大に進学。4年生で国体優勝。2014年8月にプロデビュー。17年5月にWBC世界ライトフライ級王者となり8度防衛。21年9月の矢吹正道戦でTKO負けを喫して王座陥落も、今年3月の再戦で3ラウンドKO勝利で王座を奪回した。プロ通算20戦19勝(11KO)1敗。父・永氏が会長のBMBジム所属。164センチ。