将棋の藤井聡太2冠(王位・棋聖=19)が13日、東京・渋谷区の将棋会館で指された第6期叡王戦五番勝負第5局で、豊島将之叡王(竜王=31)を111手で破り、史上最年少での3冠達成を成し遂げた。3冠同時保持は10人目。これだけでも快挙だが、快進撃はまだまだ続きそう。藤井3冠の師匠である杉本昌隆八段の兄弟子・小林健二九段(64)は、現在あるタイトルをすべて独占する“8冠制覇”も「2年くらいで見られるかも」と、あっさり予想した。

 藤井3冠は、昨年度まで分が悪かった豊島竜王を王位戦七番勝負に続いて撃破した。小林九段は「強かったですね。驚きの方が強いです。豊島、渡辺(明=名人・棋王・王将)と対等に渡り合うのは4~5年かかると思っていた」と藤井3冠の“進化”に舌を巻いた。

 豊島竜王には初対決から6連敗を喫していたが、これで対戦成績は8勝9敗とほぼ互角に。苦手克服の要因については「私の想像になりますが」としたうえで、2つの理由を挙げた。

「まず一つ目は、18~19歳というのは棋力がどんどん伸びていきます。もう一つは、私も立ち会いをしましたが棋聖戦の渡辺名人との対局で自信を付けたのだと思う。自分のやってきたことが間違ってないという手ごたえがあった。それが豊島さんにも通用したのだと思います。プロ野球選手が、打たれると思って投げたら打たれるのと一緒で、自信のない手を指してるとだいたいやられます。それが今の藤井聡太にはない。逆に豊島さんの方があったのかもしれない」

 これで2021年度の成績は26勝5敗になり、勝率8割3分9厘。プロ入り以来、勝率8割以上を毎年継続している藤井3冠だが、段位が上がって強豪相手ばかりとなっても勝率が落ちないのはとんでもない記録だ。

 だが小林九段は「すごい記録なんですけど予想の範囲内でした。なぜなら、彼自身が進化しているからです。今の聡太君が、17年に29連勝した時の聡太君と戦ったら4連勝しますよ。豊島、渡辺がだらしないと思えてしまうくらい進化していて強いです」と言い切った。

 豊島竜王とは、10月8日から始まる竜王戦七番勝負で再び顔を合わせる。4冠取りに挑むこのタイトル戦の行方に小林九段も注目している。

「豊島さんが無冠になる可能性もあり、見ものですよ。叡王戦は1日制でしたが竜王戦は2日制。豊島さんとしても最後の砦ですし、ここを聡太君が取るようなら、“藤井時代”の到来と言ってもいいんじゃないでしょうか。あとはいつ、名人に挑戦できるか」

 藤井3冠が小学4年の時に文集に記した将来の夢が「名人をこす」だった。名人に最も早くなるには、現在の順位戦B級1組からA級へと昇格し、来期A級で1位となって名人に挑戦し、勝利すれば、谷川浩司九段の21歳2か月を上回る20歳11か月で名人になる。

 小林九段は「昭和の大名人が大山康晴、平成の大名人が羽生善治。将棋界というのは30年周期くらいで大名人が出てくる。令和が何年になるかは分かりませんが、令和は藤井の時代になるでしょう」。さらに「2年くらいで藤井8冠が見られるかもしれない」と、全冠制覇も近いと話した。

「藤井聡太がボロボロになるところを見てみたいけど、あと30年だと私も90代。しんどいなぁ。歴史を見たいんですよ。昭和47年(1972年)度、大山康晴が無冠になった。49歳でした。平成の終わり、羽生さんが無冠になった。48歳なんです。そういう歴史を見たいんです」

 大山、羽生という偉大な棋士と勝負を繰り広げてきた小林九段だけに「30年間トップに君臨するのはすさまじいこと」と話す言葉にも重みがある。藤井3冠はそれほど偉大で過酷な道を歩みはじめているのだ。

 そのためにはいつ結婚するかも重要だとか。「どのタイミングで聡太君が結婚して仕事をセーブするか。羽生さんもそうですが、超過密スケジュールになりますからね。プロ棋士の宿命とはいえ、タイトル戦に加え、本や講演の依頼、将棋まつりのイベント、たまには指導体験もしないといけない…家にいる時がないんです。今の聡太君の将棋に心配するところはない。体調管理。そこだけですね」と優しく気遣った。