阪神退団の能見は〝最強Gキラー〟 巨人担当記者も魅せられた強さと気高さ

2020年11月11日 23時29分

能見の美しいワインドアップ。タテジマと黒土のコントラストが映えた

 本物の「Gキラー」だった。今季限りで阪神を退団する能見篤史投手(41)が11日、1―0のDeNA戦9回に登板。最速149キロを筆頭にほぼ直球のみを投げ込んで1安打無失点に抑え、虎戦士として有終の美を飾った。

 両腕を天に向かって真っすぐに伸ばす、美しいワインドアップのフォームが好きだった。甲子園の記者席はバックネット裏後方の最上部にある。そこから眺める景色の中央、黒土のマウンドの真ん中で白鳥のように舞うタテジマ左腕は実に映えた。

 ただ記者はトラ番記者の経験はなく、能見がエースとして君臨していた数年間は巨人担当。それでも〝伝統の一戦〟にふさわしい強敵だったからこそ、記憶に残り、魅了された。

 往時を知る巨人関係者は。いまだに「ピッチャー・能見」のコールを耳にするだけで悪夢がよみがえるという。2010年から11年にかけ、左腕は巨人戦8連勝の球団記録を樹立した。第2次原政権にとってカード毎に立ちはだかるまさに天敵であり、首脳陣が「たまには他チーム相手に投げてくれよな」とグチっていたことを思い出す。

 当時プロ2年目で、最終的に首位打者に輝いた長野(現広島)のボヤキも印象に残っている。「能見さんって、ポーカーフェースでしょ。でも僕が打席に入ると目が合って、一瞬ニヤッと口角を動かすんですよ。つまりはこういうことです」と言うと、手のひらを上に向けてくるくる回した。

「フォークは消えるし、チェンジアップは〝2回振れる〟くらい(手元に)来ない。変化球を待ってると、ズドンと近くに真っすぐが来る。僕なんて遊ばれて終わりです」と脱帽していた。

 坂本も「無理!」、亀井も「ダメだわ」、由伸は「…」。能見にはみんなお手上げ。原監督は毎度、スコアラーを呼びつけ、苦虫をかみつぶしていた。

 11年、巨人には「戦略室」が設立されたが、これは天敵・能見を打ち崩すためと言っても過言ではない。翌年「フォークを捨てろ」「見逃し三振OK」など、球団を挙げた総力戦を仕掛けて左腕を攻略。これで自信を得た巨人はその年日本一に輝くと、14年までリーグ3連覇を果たした。以降、能見は巨人戦先発のマウンドに立つ機会が減っていったが…。

 前夜の藤川も素晴らしかったが、この日の能見のクロスファイアは、あの当時を思い出すに十分な迫力があった。平成最強のGキラーがタテジマを脱ぐことへの寂しさはぬぐえないが、涼しいポーカーフェースを崩さず去るのも彼らしい。

 行き先は近く決まるだろう。今や絶滅危惧種となったワインドアップの美しいフォームで、新天地のファンも魅了してほしい。(堀江祥天)