直木賞作家の黒川博行氏(77)が社会問題化する匿名・流動型犯罪、通称トクリュウをテーマにしたクライム・サスペンス「流砂」(新潮社)を刊行した。直木賞受賞作の「破門」などで裏社会を舞台に欲望、だまし合いを描いてきた。このほど、インタビューに応じた黒川氏は「悪党を書くのが好き」と語った。その言葉の真意とは? また7月に亡くなった盟友で作家の東野圭吾さんへの思いを聞いた。
黒川氏がトクリュウをテーマに選んだきっかけは2023年に東京・狛江市で発生した強盗致死事件。住人の女性(90=当時)が暴行を受け死亡し、高級時計が奪われた。指示役は「ルフィ」と名乗り、フィリピンの収容所からSNS上で集めた闇バイトの実行役に犯行を命じた。実行役は使い捨てにされ、指示役は新たに実行役を補充し、次の犯罪に着手する。実態のない犯行グループはつかんでも掌から砂のように崩れ、闇へ流れていく。
黒川氏は数々の犯罪小説を執筆してきた。本作では犯罪グループと刑事という〝追われる者〟と〝追う者〟双方の視点で物語は展開する。
「人間模様ですよね、犯罪を通じた人間模様。悪人は書きやすいです。本質的に悪いから欲望が表に出やすい。悪人対警察。簡単に言えばみんな悪いやつ。悪党を書くのが好きなんで悪党ばっかり書いてます」
本作のミステリーの要素を深めるのが、トクリュウの特徴である犯罪グループ内で指示役、実行役、実行役同士がお互いを知らないこと。交錯する欲望と裏切りが真相を遠ざけていく。真相への探究心に加え、関西弁と映画のようなカット割りがテンポを加え、ページをめくる手を止めさせない。
カット割りには映画の影響を受けている。「映画で一番勉強になるのはカットバック。場面転換がパタパタと行く。あとは説明的なセリフは一切しない。自然なやりとりで説明はしないのは若い時から」という。
セリフを自然なものとしているのが関西弁だ。「普通に話してても、ちょっとコイツらのんびりし過ぎてるなという感じが出るでしょ? 刑事同士のやりとりでも。それは楽だし、小説家には有利に働いていると思います」と話す。
7月に死去した東野圭吾さんについて尋ねると「ノーコメントです」と口を閉ざす。デビューしてすぐに東野さんと知り合い、毎週のように電話をかけ合うなど親交を深めていた。「ノーコメントの理由は?」と食い下がると「おこがましいから。『追悼文を書いてくれ』って、山のように来たんですけど、みんなお断りしました。ただ1人の同期生。かなりショックではあります」と言葉を切った。
少ない言葉の中に黒川氏と東野さんの人間模様が垣間見えた。
☆くろかわ・ひろゆき 1949年3月4日生まれ。愛媛県出身。京都市立芸術大学卒業後、大阪の高校で美術の教鞭をとる。83年に「二度のお別れ」がサントリーミステリー大賞佳作に選ばれ、小説家デビュー。年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞を受賞。2014年には「破門」で直木賞を受賞した。












