スタジアムの一角で団子を手渡す元Jリーガーがいる。福岡市東区の「つづみ団子和白丘店」を拠点とするオーナー・中村北斗さん(40)だ。アビスパ福岡、FC東京、大宮、V・ファーレン長崎で16年間プレーし、2019年シーズン限りで現役を退いた。現在は指導者として若い世代と向き合いながら、団子販売にも取り組む。キッチンカーで各地のスタジアムを回り、サポーターと直接言葉を交わす日々。スタジアムを舞台に“第二の人生”を歩んでいる。

2015年のJ2プレーオフファイナルで後半、同点ゴールを決めた中村北斗氏
2015年のJ2プレーオフファイナルで後半、同点ゴールを決めた中村北斗氏

 長崎・諫早市出身。小学生の頃、Jリーグ開幕の熱気に引かれてサッカーを始めた。憧れの選手は三浦知良。国見高へ進み、全国高校サッカー選手権では3年連続で決勝の舞台を経験した。プロ入り後はアビスパ福岡で2年目のホームゲームで2得点を挙げて頭角を現し、FC東京、大宮を経て福岡に復帰。2015年のJ1昇格プレーオフ決勝では得点も決めた。キャリアの最後は地元クラブのV・ファーレン長崎だった。

 長崎へ移籍した時点で、中村さんの中には一定の覚悟があった。ヒザの状態もあり出場機会は限られたが、「やり切った」という思いは残ったという。サッカーに区切りをつけた後、まず挑んだのは事業だった。最初に手をつけたのは豆腐スイーツの販売。息子がアレルギーを持っていたこともあり、乳製品を使わない商品に可能性を感じたが、保存期間の短さなど難しさも大きく、方向転換を決めた。

 その後、地元の先輩に声をかけられて出会ったのが「つづみ団子」だった。和白丘店を軸に販売を始め、やがてキッチンカーでスタジアムにも出店するようになった。根っこにあるのは、サポーターとつながる場をつくりたいという思いだ。コロナ禍も挟み、引退した選手がファンと十分に別れを交わせないまま去る姿も見てきた。「応援してくれた人たちと会える場所をつくりたかった」。OB選手が販売に立ち、ファンと交流する機会も生まれている。

 アビスパ福岡のホームゲームでは、選手時代には見えなかった景色が広がる。勝敗に一喜一憂するサポーターの表情や声を、間近で感じられるからだ。「選手ってこんなに愛されているんだと改めて感じる」。朝早くから夜まで続く長い一日だが、団子を買いに来たサポーターと交わす何げない会話が励みになる。現在はレノファ山口に加え、今季からはギラヴァンツ北九州の会場にも足を運ぶ。スタジアム販売の広がりは、そのまま新しい挑戦の広がりでもある。

 指導者としての顔も持つ。東福岡の中学生年代のクラブ「東FC」と高校生の現場でコーチを務め、週に数回グラウンドに立つ。「夢よりも目標を一つずつクリアしていくことが大事」。子供たちにはそう伝えている。将来的には「ホクトカップ」のような大会を開き、地域でサッカーを楽しめる環境づくりにも関わりたい考えだ。

 忙しい日々の中でも、大切にしているのは人とのつながりである。「何事も人としかやれない」。16年間の現役生活を経てたどり着いた答えは、ピッチを離れた今の仕事にも通じている。中村北斗さんの“第二の人生”は、スタジアムの熱気の中で着実に前へ進んでいる。

笑顔でトークショーを行う中村北斗さん
笑顔でトークショーを行う中村北斗さん