2月28日、米国の首都ワシントンでトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が会談した。

 新聞、テレビの記者がいる前で口論になり、交渉は決裂した。昼食会と共同記者会見がキャンセルされ、予定されていたウクライナのレアアース(希土)開発に関する協定の署名もなされなかった。ゼレンスキー氏は虎の尾を踏んだ。

 この歴史に残る外交スキャンダルを深く理解するためには、トランプ氏の宗教に関する理解が不可欠だ。トランプ氏はカルヴァンの影響を強く受けた長老派(プレスビテリアン)のキリスト教徒だ。長老派の信者はエリート層に多い。最近、トランプ氏は、「自分はキリスト教徒である」とだけ述べ、長老派とは言わないが、それは福音派(宗教右派)の支持を得るためだ。カルヴァン派の特徴は、神は人間を選ばれて救われる者と捨てられて滅びる者にその人間が生まれる前から定めているという二重予定説だ。そして、選ばれている者は特別の使命(召命)を持つ。

 トランプ氏が安倍昭恵氏を通して石破茂首相に渡した写真集にサインと共にPEACE(平和)という言葉が書かれていた。このことに象徴されるようにトランプ氏は平和を実現することが、神から課された使命と考えている。

 トランプ氏とって重要なのは、国際法や諸外国からの評判ではなく、神からの使命をいかに遂行するかだ。カルヴァン派の教えでは、神からの使命に背くような行動をした人間は滅びる。その人間が国家の長である場合は、神からの使命に背いた者だけでなく、その国家も滅びる。

 トランプ氏は、プーチン氏と交渉してウクライナに平和をもたらすことを考えている。プーチン氏はこの交渉に乗ってきた。トランプ氏からするとプーチン氏は神の意に適う「光の子」なのである。対して、ゼレンスキー氏はトランプ氏がプーチン氏と交渉することに異議を唱えた。

 首脳会談で当初、トランプ氏は、自分が神の使命と思って政治生命を賭して取り組んでいる事業に対するゼレンスキー氏の非難を我慢して聞いていたが、ついに臨界点を超えた。「この野郎は、第三次世界大戦カードを弄んでいる」という認識に至った。トランプ氏にとって、ゼレンスキー氏は戦争継続を望む悪を体現した「闇の子」なのである。「闇の子」を殲滅することは、神に選ばれた者の責務であるとトランプ氏は考えているのだ。