【プロレス蔵出し写真館】広げた新聞を凝視する前田日明、藤原喜明、山崎一夫らユニバーサルプロレス(旧UWF)の選手たち。若手の広松智、神田秀宣までが、記事にクギ付けになっていた。

 これは今から39年前の1984年(昭和59年)10月20日、島根・松江駅のホームでのひとコマ。新聞は20日付の東スポの関西、中四国版の大阪スポーツ新聞、通称「大スポ」だ。

 見ていたのは「佐山栄光の虎マスクと決別」の記事。真偽を聞こうとでもいうのか、当事者の佐山サトルの目の前で新聞を開いていた。

 スーパー・タイガーとして活躍する佐山が、リングネームはそのままでマスクを着けて登場。コールされてからマスクを脱ぎ素顔でファイトするというインタビュー記事が掲載されていた。

 初代タイガーマスクとして人気絶頂のまま引退した佐山は、この年の7月23日、後楽園大会で行われたUWFの「無限大記念日」にザ・タイガーと改名し、約1年ぶりに復帰を果たしていた。8月6日にUWFに正式入団。この記事のプランは、翌年の2月から実行された。

 この日の試合会場は山口・徳山市。UWF勢が松江から岡山へ向かい新幹線「ひかり75号」に乗車すると、下関に向かう全日本プロレスのジャイアント馬場と天龍源一郎に遭遇。前田は2人とあいさつを交わしたという。

 徳山では試合後、藤原の音頭で浦田昇社長の45歳の誕生日が祝われた。しかし、当の本人は不在。

 というのも、浦田社長は前日の19日に逮捕されていたのだ。容疑はタイガーのUWF入りに絡み、暴力団を介しての強要容疑。浦田社長がタイガーのマネジャーだったショウジ・コンチャ(本名・曽川庄治)に、「タイガーから手を引け。プロレスに首を突っ込むな。半殺しにするぞ」と脅し、タイガーに関する権利を一切放棄する旨の念書を無理やり書かせたという疑いがかけられた。

 渦中の佐山は「社長は無実ですよ。僕は自分の意思でUWFに行ったんですからね。あの人(コンチャ)に非があるのではないかな」と語り、逆に告訴する意思を明かした。

 ところで、この時期、UWFはリング外の話題ばかりが続いていた。選手たちを食で支えた「立花肉店」の倉田忠氏がUWFの道場で倒れ、急死(10月1日)。5日には旗揚げメンバーのラッシャー木村と剛竜馬が脱退した。「崩壊は時間の問題」とささやかれていのだ。

 25日に福島でシリーズ最終戦を終えた前田は、「俺たちはUWFと心中する。ここがダメになったときは引退だ」。悲壮な決意を語った。

 ところが、翌年になると状況が変化する。佐山はスーパー・タイガー・ジムを設立。UWFに対して、従来のプロレスとは大きく異なる競技色の強いルールを考案し、公式ルールとして採用させた。UWFのスポンサーだった「海外タイムス」は世間を騒がせた豊田商事の子会社と判明し、支援は途絶えた。

 そして、気持ちのすれ違いから、ついには佐山と前田のセメントマッチに発展する。

 後に前田本人が明かしているが、9月2日の大阪府立臨海スポーツセンターでの試合は、佐山を制裁して辞めるという覚悟で臨んだという。序盤から固い試合になり、前田は佐山の顔面に強烈な張り手。佐山のソバットにもひるまず突進。

佐山(左)が急所に入ったとアピールした前田のヒザ蹴り(1985年9月2日、大阪・高石市府立臨海スポーツセンター)
佐山(左)が急所に入ったとアピールした前田のヒザ蹴り(1985年9月2日、大阪・高石市府立臨海スポーツセンター)

 佐山は、前田のヒザ蹴りに「急所に入った」とレフェリーにアピールして前田の反則負けで試合を終了させた。佐山は「今夜の前田は荒っぽかった。効いたパンチはなかったけどね」と振り返った。ヒザ蹴りは金的に当たっていないように見えた。前田の雰囲気を見て、試合にならないと判断したのだろうか。

 さて、4日後の後楽園大会は靭帯負傷を理由に前田が欠場。11日の後楽園大会には前田も来場して、遺恨が残るであろう佐山も含めた選手、スタッフ全員で写真に納まり一枚岩をアピールしたかに見えた。

 しかし、佐山の急病を理由に10月に予定されていた大会は中止が決定。佐山は方向性の違いを理由にUWFからの脱退を表明した。

 結局、UWFは11月に事務所を閉鎖し活動を停止。9月11日の後楽園大会がUWF最後の自主興行となった。松江のホームで撮られた仲良さげな写真から、わずか1年たたずに崩壊した。

一枚岩をアピールするUWF軍団。結果的にこの日が最後の自主興行に(1985年9月11日、東京・後楽園ホール)
一枚岩をアピールするUWF軍団。結果的にこの日が最後の自主興行に(1985年9月11日、東京・後楽園ホール)

 この時、袂を分かった佐山と前田だが、2013年2月23日に行われた師匠・アントニオ猪木の「古希を祝う」で一緒になっている(敬称略)。【プロレス蔵出し写真館】の記事をもっと見る