お世話になっております。ユニークなカフェ「謎喫茶」に続き、東京ゲームショウの取材をさせていただきました〝ぼっち記者〟です。

 今回もゲームショウのゲームだけではない部分に注目。ゲーム業界の奥深さを少しでも皆さんにお伝えできれば幸いです。

 まず、ご紹介するのは「シヤチハタ」さんです。そうです、あの朱肉いらずのハンコ(Xスタンパー)で有名なシヤチハタさんです。とはいえ、ハンコをタイミングよく押すゲームを作っているということではありません。今回シヤチハタさんが出展しているのは「筆文字フォント」なんです。

あらゆる筆文字フォントが用意されていました
あらゆる筆文字フォントが用意されていました

 確かに言われてみれば、和風のゲームには雰囲気を盛り立てる筆文字が欠かせません。現在は「白舟書体」さんと「昭和書体」さんという、国内の2大書体メーカーと提携し、主要な字体を網羅した筆文字サービスを提供していると言います。

 ちなみに二大メーカーがどちらも同じフォーマットに書体を提供する上で軋轢があったのでは?とも気になりますが…。実は先に契約していたメーカー側が、「同じ土俵に立ってもらわないと困る」とライバル企業の参入を受け入れたそう。さすがはお互いに書家を抱える職人気質のメーカーさん、エピソードの端々から〝武士道〟のようなものを感じますね。

 ちなみにフォントの見本も拝見したところ、街中でも見かける筆文字が目白押し。全てのラーメン店で使っているのでは?と錯覚するような粋な筆文字や、「超人気お笑いコンビが、ボタンを押してロケ映像を一時停止する某番組」に使われている筆文字も掲載されていました。

豪快な筆文字の見本も展示されていました
豪快な筆文字の見本も展示されていました

 最近はしきりに「ハンコレス」が掲げられていますが、業界の未来を担っているのが「筆文字」ということは非常に興味深かったです。ピンチの場面に何十年も会っていなかった幼なじみが駆けつけてくれているような展開、オタクとしてはたまりませんね…!

 同じくフォントという観点では、「リコー」さんも独自のドットフォントを展示されていました。

 あまりにも失礼な話ではあるのですが、私自身リコーさんには「会社のコピー機かカメラ」というイメージしかなく、フォント事業を新鮮に感じて取材したのですが…。

 ところがどっこい、リコーさんのフォントは街中で、そしてパソコンの中にもあふれかえっているというのです。なんといってもワードやエクセルで絶対にお世話になる「MSゴシック」「MS明朝」といったフォントは元々リコー製(販売権は譲渡済み)。さらに「HG」から始まるフォントに関してもリコーさんが作ったのだといいます。大学生の頃、「ここのフォント変えちゃお(笑い)」といった軽い思い付きで、意味もなく発表資料の字体を変えていた私は、リコーさんの手のひらの上でコロコロ転がされていた訳ですね…。

 他にも建設器具や医療器具、自動車のメーターにもフォントを提供しているとのこと。これまでBtoB事業を中心に展開されていたために、一般市民の我々があまり気付いていなかっただけで、以前からバリバリの〝フォント屋さん〟だったことが分かりました。

 今年のゲームショウでは、レトロなゲームに使用されるドットフォントを含むフォントサービスを出展。特にマス目が細かく、少しなめらかさが感じられるドットフォントも用意しているといいます。ゲーム制作に興味のある方、字体に行き詰まった際はぜひチェックしてみてくださいね。

自社製の「ドットフォント」をアピール
自社製の「ドットフォント」をアピール

 

 最後に紹介するのは「ラパン」さん。漫画・小説の翻訳や、ゲームのローカライズ事業を展開されている企業です。

 こちらの事業の特徴は、「すべてネイティブ(母語話者)が訳していること。端的に言えば「○○語が得意な日本人」ではなく、「○○人」の方が翻訳を担当されているということになります。このストイックな制約の上で、約30の言語に対応できるというのは衝撃です。

世界各地の言語に対応できる
世界各地の言語に対応できる

 私のような門外漢からすれば、「外国語学部卒の方に任せればいいのでは…?」とも思ってしまいますが、それでは「表現が翻訳のベースからは出ない」といいます。エンタメを扱う以上は、やはり現地の人に楽しんでもらってナンボ。そのため、母語話者の方の自然な表現や、ニュアンスの解釈を重視しているということでした。これほどにこだわりを持って海外に発信していただいていることを知ると、ただただ頭が下がります…。

 ちなみに企業としての強みは「日本語からダイレクトに翻訳できること」だといいます。例えば経済成長の著しい東南アジア諸国は言語が細かく分かれており、さらにある程度英語が通じてしまうヨーロッパ語圏と異なり、それぞれの言語に合わせた翻訳の需要が高いのだそう。しかし日本語を深く理解して翻訳できる人材は少なかったため、かつては一度英語に翻訳してから各地の言語に翻訳する、〝トランジット〟が発生していたのだとか。

 そのような状況下でラパンさんは日本語から直接現地の言葉に翻訳するルートを開拓。それによってさらにニュアンスを精密に表現できるようになったとアピールされていました。ゲームショウ内でもアジア圏のメディアの方をしばしば見かけましたが、世界中の人々がゲームで盛り上がっているという事実の裏には、様々な方の尽力があったんですね。

ラパンさんはウサギのロゴが目印でした
ラパンさんはウサギのロゴが目印でした

 というわけで、いろいろな角度から取材したゲームショウですが、実はまだまだ意外性の強いブースが存在していました。次回は「官民連携」等、ゲーム業界の新たな形についてもお伝えしようと思います。