大ベストセラー「嫌われる勇気」の著者で「アドラー心理学」の第一人者である岸見一郎氏の新刊「泣きたい日の人生相談」(講談社現代新書)が好評を呼んでいる。人間関係、ストレス、恋愛…生きる上で誰もが抱える悩みについて、Q&A形式で「30の教え」を4章のジャンルに分け、貴重なアドバイスが送られている。多くの現代人に金言を送り続ける岸見氏に、4章のテーマの主題を深く解説してもらった。

 第一章「自分のために生きる心得」

 社会的状況が厳しくなっている現在、本当はやりたいことがあったのに…と何かを理由に責任転嫁をし、自分ができることまでしようとしない人が多い。

 カウンセリングをしていても「分かりました。でも…」と言う人が多い。「でも」と言う人は「しない」と言っているのです。「でも」と言うのをやめ、初めから諦めなければ、できないと思っていたことでも意外とたやすくできることはあります。前向きになればどんなことでもできるほど人生は甘くはありませんが、初めから逃げなくてもいいでしょう。

 ただし、足元を見ないで、いきなり高い理想を掲げるのもよくない。昨日よりは今日少し頑張れたと思えたら、理想からの引き算ではなく現実への足し算ができる。人間は弱いものですが「できない」と諦めず、日々努力を続ければ、気がつけばかなり遠くまで来たという実感が得られる。最初から遠くへ行こうとしても、それは無理です。「あの時、ああすれば」と後悔するよりも、今、できることをするのが大事です。

 第二章「人生の苦悩と向き合う」

 人間は今、ここしか生きられない。恐怖という感情は誰でも持つもので明確な対象がある。例えば地震は怖いですね。しかし将来への「不安」は漠然としたもので明確な対象がない。不安は自分が解決すべき問題から逃げて、未来の問題に立ち向かうことを避けるために自分で作り出す感情なのです。

 若い人でも老後のことを考えて不安になることがあります。先の備えが全く必要ないわけではありませんが、あまりに先のことを考えすぎて、未来への不安にとらわれてしまうと、「今」を生きる喜びを感じられなくなります。

 過去についても後悔しても仕方ない。過去に引きずられてしまっては「今」を生きることができなくなります。不安と後悔を手放し、今日という日を今日という日のためだけに使うことが大事です。

全4章、30のQ&Aに分かれ貴重なアドバイスが送られている
全4章、30のQ&Aに分かれ貴重なアドバイスが送られている

 第三章「人間関係のストレスを乗り越える」

 対人関係は本当に煩わしいものです。上司が嫌な人でも乗り越えていかなくてはいけませんが、そういう人のために人生の喜びを失うのはもったいない。仕事上の付き合いなので、深く関わらなくていいんです。

 怒鳴る上司は部下をおとしめて自分の価値を相対的に高めようとしているだけ。そんな場合は「そういう言い方はやめてください」と直言してみましょう。

 支持してくれる仲間は絶対いますが、自分が最初に行動するしかない。アドラーは「勇気は伝染する」と言っています。職場で上司と対立した時は勇気を持ってほしい。もちろん上司が文句をつけようがないほど有能になる努力はしなければなりません。

 あまりに他人の顔色をうかがい過ぎると、するべきことができません。人を傷つけてはいけませんが、嫌われることを恐れない勇気を持ってほしいです。一人の力は意外に大きい。異動や転勤など理不尽なことはありますが、自分の力だけでは何もできないと思わず、できることから始めれば、時間的には後から所属した職場でも、必ず変えられます。

 第四章「恋愛、結婚の哲学」

 どんな恋愛も独断的に非難できないとアドラーは言っています。ただし結婚に至らない人を選んでいる場合があるとも指摘しています。いい関係を築く自信がないからです。この人とでなければ恋愛や結婚は成就したと言いたいのです。相手さえ見つかれば恋愛は成就するわけではありません。愛され方ではなく、愛し方を知っていなければなりません。

 セックスレスという問題は悩む必要はありません。大事なことはコミュニケーション。セックスは相手との関係性がはっきりと分かるコミュニケーションです。対等な関係が築けていればセックスの有無は問題になりません。

 家に帰ってきたパートナーが「ただいま」と言った瞬間からセックスは始まっているのです。そこから気持ちが高まれば、行為としてのセックスに至るかもしれませんが、そこまで行かなくても「いつも一緒にいたい」という気持ちさえあれば、狭義のセックスレスはなくなります。

 最後に

 若い人から年配の方まであらゆる世代に読んでいただける構成になっています。できれば若い時期、早い時期に読んでいただきたい。できれば一読で終わらず折に触れて読んでほしい。読まれた方に「自分の人生を少し変えられそうだ」と思ってもらえたなら、著者としてこれ以上の喜びはありません。

【アドラー心理学】オーストリア出身の精神科医、心理学者のアルフレッド・アドラー(1870~1937)が導き出した哲学的な考え方。人間の隠し持つ「目的」に注目した個人心理学。

岸見一郎氏と新刊
岸見一郎氏と新刊

 ☆きしみ・いちろう 1956年生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。奈良女子大学文学部非常勤講師などを務める。ギリシャ哲学研究と並行しアドラー心理学を研究。「嫌われる勇気」と「幸せになる勇気」は合わせて世界累計1200万部の大ベストセラーを記録。「哲学人生問答」「人生は苦である、でも死んではいけない」など多数の著書がある。