ノーベル文学賞作家の大江健三郎さんが、3日未明に老衰のため88歳で死去していたことが13日、明らかになった。大江さんは戦後民主主義を象徴する作家で、1960年の安保闘争を背景に描いた「万延元年のフットボール」は世界的評価を得た代表作として知られる。難解な小説が多く堅いイメージの作家だったが、生前はタレントの所ジョージと親交があるなど意外な一面もあった。

 大江さんは1935年に愛媛県で生まれ、東京大学在学中に学生作家としてデビュー。58年の短編「飼育」で芥川賞を受賞して脚光を浴びると、67年の「万延元年のフットボール」で谷崎潤一郎賞を史上最年少で受賞した。ノーベル文学賞は94年。俳優・映画監督だった故伊丹十三さんの妹・ゆかりさんと結婚し、知的障害を抱える長男で作曲家の大江光氏との共生をテーマにした作品を残したことでも知られる。

 芥川賞・直木賞の発表会場から、受賞候補作の解説と受賞予想を行うネット番組に長年出演しているジャーナリストの井上トシユキ氏は、大江さんについて「戦後民主主義の旗手として日本の文壇を長年リードしてきた大御所。私的な体験や生まれ育った四国の神話や伝承を交えた作品は文学ファンの間でも難解と言われて、好みの分かれる作家でした」と振り返る。

 大江さんは核兵器問題や歴史問題にも積極的に言及してきたことで知られる。過去のインタビューでは第2次世界大戦をアジアへの侵略戦争だったとして謝罪すべきと主張し、A級戦犯が合祀される靖国神社への参拝を批判するなど、政治社会の問題に対しても恐れず発信し続けたことで物議を醸したこともあった。

 一方、文学界では毎年ノーベル文学賞受賞を期待される村上春樹氏を高く評価していた。村上氏の79年のデビュー作「風の歌を聴け」では、当時、芥川賞の選考委員だった大江さんは名指しこそ避けたものの「今日のアメリカ小説をたくみに模倣した作品もあった」と批判したが、のちに「実力を見誤った」として評価を一転させている。

 また、87年に「ノルウェイの森」が発売されたころ、大江さんも自身の記念碑的超大作「懐かしい年への手紙」を刊行。当時、自身の本の売れ行きを見に立ち寄った書店で平積みされた「ノルウェイの森」を見て、「私の作家生活に次の世代の脅威の影が差す最初の、決定的な危機となった年が、この年であった」と著書「読む人間」の中で回想し、最大級の賛辞を贈っている。

 晩年は作家として筆を持つことはなかったが、意外な交友があった。

「実は大江さんは所ジョージさんと自宅が近く、たまたま散歩中に知り合ってからずっと親交があり、お互いに家を行き来したり文通もしていたほど。直接番組に出演したことはなかったが、所さんも自身の番組『所さんの世田谷ベース』で何度か大江さんとのエピソードを明かしている」(テレビ関係者)

 難解な小説や政治社会に対する批判もあって堅いイメージだった大江さんだが、出版関係者は「講演では必ず最初にユーモアあふれる話をしてから、本題に入るというのがルーティンだった」と明かす。類いまれな文才、そして戦後民主主義を根底にしたブレない批判精神が、日本を代表する大作家を支えていたのかもしれない。