稲垣吾郎(48)主演映画「窓辺にて」が11月4日、全国公開される。メガホンを執ったのは、「愛がなんだ」(2019年)のヒットで知られる今泉力哉監督(41)。恋愛を軸に、日常の様々な思いや悩みを浮かび上がらせる独特の作風は「今泉流」とも称され、熱烈なファンを持つ。完全オリジナル脚本の今作は、主人公・市川茂巳と稲垣の一体感が見どころだ。観る人を引き付け、心の奥深い部分を揺さぶる稲垣の演技はどうやって生まれたのか。公開を間近に控え、今泉監督に聞いた。
主人公の市川は、一冊の本を出した後、フリーライターとして働いている。ある日、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が若い作家と不倫をしているのに気づいたが、何の感情も起きなかったことにショックを受けた。ただ誰に相談したらいいのか、そもそも相談すべきなのかもわからない。そんな折、文学賞を受賞した高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)と知り合う。留亜に振り回されるうち、市川に少しづつ変化が起きていく。
――市川なのか稲垣さんなのか、わからないぐらい2人の存在が近い
今泉監督 皆さんにそう言っていただいて。稲垣さんからも「パブリックイメージの自分じゃなくて、本当に自分の心の中とか自分が言いそうなセリフとか、本当に僕がすごしていそうな日常が描かれていて…。変なスピリチュアル体験をした。なんでそんなに僕の心がわかるんですか」みたいなことをおっしゃってくださって。うれしいですね。
――キャスティングの経緯は
今泉監督 企画側から「稲垣さんで映画を作りませんか」という話をいただいて「ぜひやりたいです」と。稲垣さんが雑誌(anan)で映画コラムを持っていて、自分の作品を何度か取り上げ、観ていただいているのも知っていました。ただ実現できるかは半信半疑で…。
――どうしてですか
今泉監督 「稲垣吾郎」だから(笑い)。プロットは当て書き(稲垣をイメージして書く)だったので、実現できて本当によかったです。
――実際、稲垣さんに会ってみて
今泉監督 奥さんが浮気した時に感情が動かないのは、万人が理解できる気持ちではないと思っていたし、稲垣さんが全く理解できないけどこの役やります、となってもおかしくなかった。でも衣装合わせのときに「なんかわかる。なんか知っている感情です。僕も怒っていいような事態に直面した時、もっと怒っていいんですよと言われることもあるけど、まあまあ…となってしまう。感情を出した翌日とか、気になっちゃう」と言っていただいたんです。
――市川はずっと悩んでいる
今泉監督 この話は結構、悩みについての話でもあるんです。誰に相談するのかの旅。市川は結局、奥さんと向き合うことになるけど、誰にも相談しないという選択肢もある中で、やはり人と出会って交流していく物語だと思っています。
――市川の口癖である「えっ」が面白い
今泉監督 「えっ」とか、言葉の頭につけるノイズを自分はものすごく脚本に書くんです。極力現実世界のやり取りに近づけたくて。シナリオ学校などでは脚本のセオリーとしてはあまり書かないほうがいいと言われていたりしますが、自分は書きたい。現実世界に近づけたい。創作の世界では意外と普段の口語がないので。
――この「えっ」で市川がどう思っているかが、わかるという…
今泉監督 稲垣さんの「えっ」は、俺の思っている「えっ」と若干ずれているものも存在しています。だけどそれを俺が制して整えていくことが作品にとっていいのか。自分が俳優さんに演出するときの方法として、絶対に先に説明しません。それが答えになってしまう。俺が思っている以上のアイデアを閉ざしたくないんです。そういう方法もあるんだと自分も驚きたいんです。
――そういう驚きは今回もありましたか
今泉監督 一番わかりやすいのは、夫婦のお互いの気持ちを吐露する長回しの場面です。脚本を読んであの芝居を観ると、全然芝居のほうが面白い。あれはちょっと久しぶりに…(言葉に詰まる)。俺は現場で感情的にならないよう、極力冷静でいます。どれだけ笑いが起きる場面でも絶対に笑わない。生ものとスクリーンを通したときは温度が変わるので、今、生でみたら面白いけど実際スクリーンを通したら伝わるのか。でも…あのやりとりはグッときました。2人だけ、スタッフいないんじゃないかと思うぐらい、お互いの感情が本物で。映像を見るといまだにそうなります。
――あの場面は、黙っているはずの稲垣さんから声が聞こえた気がして驚きました
今泉監督 これだけ会話、言葉が多い映画だけど、やっぱり言葉がない時間のほうが雄弁だったり。好きっていったら好きっていうことになるわけじゃない、そういうことをやりたい気持ちがすごくあった。愛情表現をしない夫婦と、日常的に相手を好きという夫婦がいて、その好きは本当なのかと。そこを疑ってしまう。これだけ(俳優に)しゃべらせているけど、言葉を本当のものだと信じていないかもしれないです。
――稲垣さんの背景を感じた演技はありますか
今泉監督 一か所、「期待とか信頼とかされないほうがいいよ。時に裏切ることになるし…」というセリフがあるんです。小説家の茂巳として書いたんだけど、これまでとんでもない期待を浴びてた稲垣さんがそのセリフを言ったとき、ゾワっとしたというか、ひとつなにか乗っかった気がしました。俳優はとても特殊な仕事で、その人の実時間が乗っかるときがある。俳優である前に人間だし、自分はそこを切り離して考えていない。だからキャスティングの時点で結構決まってくる気がします。それこそ玉城さん(留亜)は、ビジュアル先行で中身を見てもらえない的な葛藤はきっと知ってるはずだと思った。
――稲垣さんともう一回映画を撮るなら
今泉監督 一度主演した人と再度というのは過去にやったことがないんです(笑い)。「愛がなんだ」で岸井(ゆきの)さんと何かやるってすごく難しいと思っていて。今回もある程度書ききってやりきっているので。主演って特別なんです。うーん…そうですね、もう一回やるとしても、また稲垣さんが困っているかな(笑い)。
















