全ロックファン待望の「バイブル」が評判を呼んでいる。英国のトップロックジャーナリストがロック全盛期の1950年代から70年代までの主要バンドの変遷を31のツリー(系図)にまとめ、注釈や解説を徹底的に盛り込んだ「ロック・ファミリー・ツリー」(ピート・フレイム著。新井崇嗣、瀬川憲一訳=みすず書房)だ。実に400ページ、重さ1・3キロ。索引だけでも1700以上のアーティストやバンドが羅列された超大作。1万5000円+税の値段ながら、8月の刊行から好調な売れ行きを記録している。翻訳に当たった新井氏と瀬川氏に本書の魅力を聞いた。

翻訳にあたった新井氏(左)と瀬川氏
翻訳にあたった新井氏(左)と瀬川氏

 ――アナログ世代にとっては号泣ものの「超大作」となりました。相当なご苦労があったのでは

 新井氏 大きな肩の荷を下ろせて、今はほっとしています。関連情報が細かく整然と書き込まれているのですが、著者の思いが突然出てきたりと、脈絡や時系列がばらばらな部分もありまして。そのため訳し漏れがないよう、通常より注意は必要でしたが、パズルを解くような感じもあって、とても楽しかったですね。

 瀬川氏 僕は新井さんと違い翻訳を生業にしておらず洋楽歌詞を翻訳している立場ですが、やはり時系列が飛んでしまうので、どこまで訳したか分からなくなる。全部訳したと思ったら「ここ訳していませんよ」とか。実際に本になったらすごいものになりましたね。

 ――アナログ世代には最高の「バイブル」で、サブスク全盛の現代にも最適なガイド本かと

 瀬川氏 NACK5に出演してこの本についてトークをしたのですが、選曲の際に読みながら調べると新たな発見があった。今ならサブスクやユーチューブで音を追うことができるし、ロックの「沼」に入り込んでいけると思います。

 新井氏 僕のイメージは「深い森」かな。奥に迷い込み、思いも寄らないすてきな風景に出会える。

 瀬川氏 あ、森のほうがいいかもしれない。

 新井氏 僕もネットで曲を聴きながら訳しました。このアーティストは?と思ったら、いまはすぐにネットで確認できるのがいいですね。図鑑や辞書のように楽しんでいただければと。

 ――50年代から70年代までロック全盛期の膨大な情報が詰まっている。ご推薦のツリーは

 瀬川氏 表紙にもなった3大ロックギタリスト(エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック)を輩出したヤードバーズ。この本の根幹になる部分で、クラプトンは別にツリーがありますけどね。しかも注釈文でベックがいかに嫌なやつかがメンバーの証言で書いてある。「だからバンドが長続きしない」とか(笑い)。

 新井氏 僕はジーン・ヴィンセント。「ビー・バップ・ア・ルーラ」だけでは語り尽くせない、栄光と挫折の物語は必読です。それとクリフ・リチャード(英国の国民的シンガー)も。どちらも、ピートさんの思い入れがたっぷり詰まっています。それと、私の洋楽の入り口であるリッチー・ブラックモア関連のツリーもぜひ。

「ロック・ファミリー・ツリー」の表紙を見ているだけで胸が躍る
「ロック・ファミリー・ツリー」の表紙を見ているだけで胸が躍る

 ――今回が前編で後編も出るというお話も聞きました。これから読む方へメッセージを

 新井氏 分厚くていかつく見えますが、実はニヤニヤ、クスクスさせられる情報が盛りだくさんの、気軽に繰り返し読める一冊です。とことん味わい尽くしてください!

 瀬川氏 読破するというより辞書や図鑑のように開いた部分から楽しんでください。一緒に深い森の奥へ入りましょう。

 ☆あらい・たかつぐ 1967年神奈川生まれ。翻訳者、音楽ライター。中央大学法学部法律学科卒、メンフィス大学英語学部言語学学科修士課程修了。音楽関連書籍・記事の翻訳の他、音楽誌への寄稿やCDライナー執筆も。主な訳書に「私はリズム&ブルースを創った――ソウルのゴッドファーザー自伝」「アレサ・フランクリン リスペクト」「サウンド・マン 大物プロデューサーが明かしたロック名盤の誕生秘話」など多数。

 ☆せがわ・けんいち 1968年富山生まれ。ラジオ番組制作者。東京大学文学部卒。衛星放送局勤務を経てフリーに。ラジオ、テレビの番組制作、音楽専門放送の選曲などに従事しながら、音楽ライター、クラブDJ、音楽制作も手掛ける。NACK5「ラジオのアナ」、FMとやま「URBAN COLORS」などに出演して洋楽歌詞の解説を行う。近年は、ツイッター・アカウント「つぶ訳」で洋楽歌詞を紹介。多数の支持者を持つ。