土俵上で前代未聞の〝珍事〟だ。大相撲名古屋場所8日目(17日、愛知県体育館)、横綱照ノ富士(30=伊勢ヶ浜)が幕内若元春(28=荒汐)を下手投げで下して6勝目(2敗)を挙げた。

 右上手を取られた照ノ富士は半身で耐えて膠着(こうちゃく)状態が続いた。取組開始から2分が経過し、若元春のまわしが緩んでいたため、立行司の式守伊之助が「まわし待った」をかけた。だが、一時中断すると思いきや若元春には伝わらず一方的に寄り切られた。

 思わぬ事態に会場内は騒然となり、力を抜いていた横綱は納得いかない様子。ただ、直後に物言いがついた。協議の結果、佐渡ヶ嶽審判長(元関脇琴ノ若)は「行司が『まわし待った』をしたときに動いてしまいましたので、まわし待ったの状態から取り直しといたします」と説明した。

 すると、土俵上では照ノ富士と若元春が組んで〝原状回復〟を行った。佐渡ヶ嶽審判長がビデオ室の藤島親方(元大関武双山)から指示を受け、2人の前に出していた足や位置取りなど微調整を繰り返した。こうして協議開始から約7分後に勝負再開。照ノ富士が前に出た若元春を下手投げで転がした。

 取組後、佐渡ヶ嶽審判長は協議内容について「『まわし待った』が成立していたかどうかだった? そうですね。明らかに照ノ富士が力を抜いていましたからね」。その一方、行司のタイミングが適切だったか問われると「うーん」とうなりつつ「若元春は聞こえなかったんですかね。照ノ富士が聞こえて明らかに力を抜いていた」と指摘した。

 この日は逸ノ城が黒星を喫し、照ノ富士ら2敗の6人がトップで並んだ。取材に応じることなく会場を後にした横綱が、混戦状態のV争いを一気に抜け出すのか。