史上最強横綱は一体どうしたのか。大相撲九州場所10日目(17日、福岡国際センター)、横綱白鵬(30=宮城野)が関脇栃煌山(28=春日野)を寄り切り、幕内で唯一の全勝をキープ。36回目の優勝に向けて大きく前進した。一方で、横綱が格下を相手に2度にわたって「猫だまし」の“奇襲”を見せたことが物議を醸すことに。日本相撲協会の北の湖理事長(62=元横綱)が珍しく苦言を呈するなど、角界内では大きな波紋が広がっている。

 優勝35回を誇る大横綱が、まさかの“奇襲”に出た。白鵬は立ち合いで両手をパチンと叩いて「猫だまし」を仕掛けると、頭から突っ込んできた栃煌山をヒラリとかわした。相手の振り向きざまに再び両手をパチン。最後は突き起こしてから得意の右四つで寄り切った。勝負が決すると、栃煌山の胸をポンと叩いてドヤ顔を浮かべた。

「猫だまし」とは、一般的に小柄な力士が大型力士を相手に見せるかく乱戦法の一つ。小兵ながら多彩な技でファンを魅了した舞の海が使ったことでも知られている。ただ、正攻法が求められる横綱が格下相手に使うのは前代未聞のこと。真っ向勝負を期待した大入りの観客はざわつき、角界内の反響も大きかった。

 北の湖理事長は「横綱としてやるべきことじゃない。稽古場でふざけてやるならいいが…。全然、手本じゃない。猫だましは“勝てない”と思う相手にやるもの。あれで負けたら横綱の品格に引っかかる」と苦言。ここまで厳しい言葉を口にするのは珍しいことだ。審判部副部長の藤島親方(43=元大関武双山)も「まさかという感じ。お客さんは力強い相撲を期待している」と首をかしげた。

 白鵬は4日目に小結嘉風(33=尾車)との一番で立ち合い直後に変化したばかり。そして、この日は横綱としては“邪道”とも言える猫だまし…。その背後には「何をしても勝てばいい」という姿勢も透けて見える。親方衆の一人は「これでは下の者に示しがつかない。特にモンゴル出身の力士は、白鵬のことを見ているから」と指摘。

 実際、角界の頂点に君臨する大横綱の行動が他の力士に及ぼす影響力は小さくない。秋場所では横綱鶴竜(30=井筒)が大関稀勢の里(29=田子ノ浦)と優勝の行方を決する大一番で2度にわたって変化。大関照ノ富士(23=伊勢ヶ浜)も今場所8日目に大関豪栄道(29=境川)を相手に“注文相撲”を取った。

 その照ノ富士は、横綱や大関の変化が良しとされない風潮に次のように異を唱えたことがある。

「なんで? 白鵬横綱だって、やってるじゃん!」

 その考え方の是非は別にして、後に続く力士たちの多くが白鵬の行動を「基準」にしている現実が浮き彫りとなった。白鵬本人が気ままに振るまえば振るまうほど、周囲の“誤解”も深まる構図が出来上がっているのだ。

 一方で、当の白鵬は周囲の反応など、どこ吹く風だ。「勝ちにつながったから、うまくいったことにしましょう。お客さんの反応?(両手を叩いて)コレのこと、知らないんじゃないの。帰ってビデオを見たら分かる。『こういう“技”もあるんだ』って。一度やってみたかった? まあね。楽しんでます」と悪びれずに言い放った。

 まるで「珍しい技を見せてあげた」とでも言わんばかりに得意げな表情を浮かべたが…。人気の回復が著しい大相撲だが、これで正しい方向に進んでいると言えるのか。