仕事着のカジュアル化と新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、「スーツ市場の縮小が止まらない」というニュースが世間をにぎわせている。しかし一方で、時代にフィットした新しいタイプのスーツが続々と誕生しているのもまた事実。流通ウォッチャーの渡辺広明氏(53)が「ニューノーマルにはニュースーツが“戦闘服”になる!」と断言した理由とは――。
スーツ市場の縮小はデータが明確に示している。総務省の家計調査(2人以上世帯)によると、スーツへの支出額は昨年2893円。2000年の1万119円と比べても約3分の1、過去最も額が大きかった1991年(約1万9000円)と比べると約6分の1にまで落ち込んでいる。
「以前からスーツ離れの影響は出ていたが、新型コロナで大手4社が赤字に転落。なかでも業界トップの青山商事が過去最大の赤字を出し、希望退職者を募ったことでさらに業界危機が騒ぎ立てられるようになっている」(経済誌記者)
だが、いくらテレワークが進んだとはいえ、仕事着としてのニーズがなくなったわけではない。
「おしゃれに敏感でない僕のように、着てるだけできちっと見えるスーツを重宝していた人も少なくない。だからこのタイミングで機能性ときちんと感を兼ね備えた新しいタイプのスーツのラインアップが広がり、注目を集めているのだと思います」(渡辺氏)
現在、爆発的な人気で店頭で品切れが相次いでいるのが、「ワークマン」の裏返すと作業着になる「リバーシブルワークスーツ」(上下セットで税込み4800円)。もともと水道工事を手掛けていた「オアシスライフスタイルウェア」のスーツに見える作業着こと「ワークウェアスーツ」(上下で約3万円)も話題で、今後3年間で全国15店舗の出店を目指している。
異業種の参入によって紳士服チェーンもイノベーションを加速させている。現在、「パジャマスーツ」と「アクティブスーツ」という“ニュースーツ”で新たな市場を切り開いているのが株式会社AOKIだ。広報室長の飽田翔太氏がパジャマスーツ誕生の経緯を語る。
「昨年5月、コロナが拡大する中でAOKIとしてどうお役に立てるのかを考えたときに洗えてストレッチの利いた布マスクを発売して、おかげさまで1000万枚以上を突破するほどのご好評をいただきました。マスクをお買い求めに来たお客様にどういったお悩みを抱えているのかをヒアリングしていくと、夏ぐらいから『自宅で仕事中に着る服がわからない』という声が多くあり、『パジャマ以上おしゃれ着未満』というコンセプトで商品開発に取り組んだのです」
唐突なアイデアに社内でも反発の声が上がった。企画から販売まで1年以上かかるのが当たり前のアパレル業界だからこそ、「本当に売れるかどうかわからない」と疑問の目も向けられたが、そのときAOKIが動いた。
「会長からゴーサインが出ると異例の速さで進み、7月にデザインが完成して、11月発売にこぎつけました。当初は『パジャマスーツ』というネーミングはなかったのですが、12月にそれを打ち出すと世界20か国で報道され、想定の2倍の売り上げを記録しました」(飽田室長)
値段はジャケット、パンツ各4990円(税別)。ハリ感のあるニットやジャージー素材を使用している。立体的な縫製が得意というスーツ専門店の強みを存分に生かして、着心地ときっちりした見た目を両立させたのだ。動きやすく、きちんと感もあるのでゴルフに着ていった人もいると思う。「サイズもS・M・L・LLの4展開に絞ったので、従来の既製スーツ(約24サイズ)に比べて効率的に販売できる。何より着心地がいいですね」と渡辺氏も太鼓判を押した(取材終了後に購入)。3月には春・夏使用の「パジャマスーツ」も販売される見通しで、米国やシンガポールからも注文が入っているという。
さらに、AOKIでは低価格と高機能を兼ね備えた「アクティブワークスーツ」(上下セットで税込み4800円)の開発も一気に進んだ。2月1日にオンラインショップで先行予約発売をしたところ、想定を上回る注文が殺到し、店頭発売を延期させる事態となった。こちらも機能性の高いストレッチ素材と立体縫製により長時間着ていても疲れにくく、自宅の洗濯機で洗える手軽さが評価されているようだ。Tシャツやスニーカーと組み合わせてもかっこよく着られるのが斬新だ。
「スーツには約200年の歴史があるが、『仕事着=スーツ』をリセットする。今まで通りのフォーマルなスーツも提供していきつつ、ニーズ商品に対しては型にこだわらずスピーディーに対応し、お客様にご提供していきたいと考えております」と語る飽田室長。
渡辺氏は「低価格で高機能なニュースーツは今後もっと広がる。今までスーツを着てなかった新規顧客も獲得できるでしょう。また、セールありきではない、わかりやすい価格設定も消費者に好意的に受け入れられるはず。今後はより機能性を高めて、低価格化に歯止めをかけることがポイントだと思います」と分析した。
紳士服チェーンはまだまだ終わっちゃいない!
☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約730品の商品開発にも携わる。著書に「コンビニが日本から消えたなら」(KKベストセラーズ)。












