大相撲初場所9日目(18日、東京・両国国技館)、大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が幕内碧山(29=春日野)に一方的に押し出される完敗を喫した。今場所は日本出身力士による10年ぶりの優勝がかかるなか、4敗となり優勝争いから完全に脱落。またしても期待を裏切る格好となった。その稀勢の里が土俵外で見せた行動が、角界内に大きな衝撃を与えている。

 痛恨の4敗目を喫した稀勢の里は取組後の支度部屋で「…」と無言。最後まで厳しい表情を崩さないまま国技館を後にした。今場所は日本出身力士による10年ぶりの優勝へ期待が高まるなか、その筆頭候補としても名前を挙げられていた。しかし、フタを開けてみれば終盤戦を迎える前にV逸が決定的に。4場所連続でマークしていた2桁白星すら怪しい雲行きになってきた。

 さらには、和製大関が土俵外で見せた行動が角界内に衝撃を呼んでいる。関取衆(十両以上の力士)による力士会は独自のファンサービスを企画。日本相撲協会の公式ソング「ハッキヨイ! 大相撲ひよの山かぞえ歌」を現役力士たちが熱唱する映像を製作し、場所前の今月7日に相撲協会を通じて発表した。現在も相撲協会の公式ホームページのほか、動画投稿サイト「ユーチューブ」からも視聴することができる。

 力士会の会長を務める横綱白鵬(30=宮城野)をはじめ、角界屈指の歌唱力を誇る小結勢(29=伊勢ノ海)や人気者の幕内遠藤(25=追手風)らが出演。各力士がノリノリで参加するなか、明らかに“異質”の存在だったのが稀勢の里だ。曲の終盤、力士会全体で歌唱する場面で登場したものの、明らかにぎこちない表情。かすかに口を動かす程度で、実際に歌っているのかどうか…。

 ラストでは力士全員が一斉に手を振るなか、一人だけ遅れて渋々手を振っているようにも見える。関取衆の一人は「完成した映像を見てビックリした。一人だけ、やる気がなさすぎる…」と言って絶句。協会関係者も「嫌なら出なければよかったのでは」と首をかしげた。もっとも、今回の行動の是非は別にして稀勢の里の“生きざま”を象徴しているシーンとも言える。

 テレビのバラエティー番組などに出演せず、他の関取衆とも必要以上にかかわらない孤高の存在。今もなお、先代鳴戸親方(故人=元横綱隆の里)の“硬派路線”を貫き通している。独自の道を選んだ以上は実力で周囲を認めさせるしかない。だが、いかんせん高い理想に結果が伴わない…。

 今後、そんな不器用な男の苦悩が報われる日は来るのだろうか。