安倍首相の突然の辞任発表はスポーツ界、特に新型コロナウイルス禍で来夏に開催が延期となった東京五輪の関係者に衝撃を与えた。大会組織委員会の遠藤利明副会長(70)は「五輪については心配していない」と今回の辞任劇が開催可否判断に与える影響を否定したが、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(66)の様子は少々違っていた。
 首相の辞意表明を受け、急きょ組織委の森喜朗会長(83)に電話会談を要請。組織委幹部によると、来夏の五輪開催に向けて引き続き日本とIOCで協力し、準備を進める方針を確認したというが、バッハ会長の方から日本側に連絡を入れたという点がIOCの動揺を端的に示している。

 バッハ会長にとって安倍首相は「強力かつ信頼できるパートナー」だった。今年3月末、史上初の五輪延期を鶴の一声で決断し、バッハ会長に提案したのがほかでもない安倍首相だ。その後、バッハ会長は海外メディアのインタビューで「来年の開催が最後のオプションだと安倍首相に伝えられた」などと事あるごとに「アベが…」と名前を出してきた。

 現状ではコロナ禍で五輪開催は風前のともしび。大会簡素化や追加費用など問題山積みの中で、水面下ではすでにスポンサー離れが始まっているともささやかれており、複数の有力企業が撤退の意思を固めたと証言する関係者もいる。組織委幹部とIOCは定期的に電話会談を行ってコミュニケーションを図っているが、招致段階から安倍首相と歩んできたバッハ会長としては、この期に及んで別の人間と一から信頼関係を築くというのはハードルが高いだろう。

 後任の首相が五輪開催に否定的な姿勢をとるとは考えにくいものの、開催可否を最終的に判断するのはIOC。バッハ会長の行動は日本国内の〝空気〟をいち早く知っておきたかったというところだろうが…。けん引役の辞任で、開催への道がさらに険しくなったのは間違いない。