高額なメダカを盗んだ男が逮捕された。メダカといえば、1匹10円ほどで販売されており、熱帯魚のエサ扱いというイメージがあるが、最近は色彩や体形が多様化し、ニシキゴイや金魚並みに人気になってきている。全国的にメダカ愛好者が増加する一方、盗難や悪徳業者の“詐欺行為”も増えているという。

 愛媛県警松山西署は13日までに、松山市の玉井俊郎さん(69)が経営するメダカ販売店「ザ・メダカ」から観賞用メダカを盗もうとしたとして、同市の自動車中古品販売の塚本英明容疑者(47)を逮捕した。

 同署や玉井さんによると、塚本容疑者は11日午前0時ごろ、懐中電灯を照らしながら、店外のケースに入れられた観賞用メダカを網で盗もうとしていた。玉井さんの知人男性(38)が目撃し、取り押さえ、同署が逮捕した。

 取り調べの中で、5月26~29日の間に同店で観賞用メダカ「ブラックダイヤ」48匹(時価1匹約1万5000円、計72万円相当)を盗んだことを認めたため、12日に窃盗容疑で再逮捕されている。

 ブラックダイヤは、神奈川県のブリーダーが最近開発したばかりの新しい品種で、黒地にまぶされたラメが美しい。玉井さんは本紙の取材に「全国で6店舗に卸された一つがウチの店。黒いメダカは、日光に当てると元気になってますます黒くなるから、外に出していた。犯人の顔も見たけど、一度は店に来たかも分からないが、親しく話した人じゃない」。

 店は泥棒の被害に何度となく遭ってきた。

「昨年は5ケース(300~500匹)が盗まれて、なめてるのか、ケースだけ返ってきた。この前も、ペアの『あけぼの』(ニシキゴイのような体色の品種)が盗まれた」と振り返る玉井さん。1年前には自分で泥棒を捕まえたこともあったという。

 犯行動機は明らかになっていないが「自分で飼育しているマニアで、どうしても欲しいという気持ちだったんじゃないか?」(玉井さん)。

 転売もあるにはあるが珍しいケースだという。

「私は趣味でいろいろやるんだけど、たとえば花のランは1本100万円のものもある。増やせば200万~300万。それで頑張って増やしたがる。でも、人間は欲が深い。盗んだメダカを飼うなんてなあ…」と落胆するのだ。

 メダカの世界は日進月歩で、交配による高級品種が次々に生み出されている。たとえば、岡山県の「静楽庵」の「3色ラメ幹之(みゆき)体外光タイプ」は「先日、展示会を開いたときには4匹で20万円。ペアで15万円でした」(同店関係者)。交配は非常に難しく、だからこそ、複雑な魅力にひかれた愛好者が増えているのだ。

 泥棒だけでなく、そんなファンをだまそうとする悪質な業者も増えている。

 玉井さんは「ある品種のメダカが欲しくて、その卵を10個や稚魚を数匹買う。すると、欲しいものに全然育たない。メダカは半年しないと本来の姿が分からない。ただの300円のメダカに『色揚げ剤』を食べさせて赤色にして1万円で売ることも。素人は分からないからね。ネット販売店の中にはそういうことをするのがいる。信頼の置ける相手から購入してほしい」と注意喚起する。

 商品としては高利益のメダカだが、生き物だけに手間がかかり、全滅するリスクも高い。そんなメダカを横から奪い去っていく犯罪は許されない。