「AIに仕事を奪われる!」とキャッチーな見出しが世間を騒がせてからはや数年たちました。この数年間で、AIはさらなる進化を遂げていますが、皆さんのお仕事に変化はあったでしょうか。そこで今回はAIにできること、できないことをご説明した上で「AIによってなくなる仕事、なくならない仕事」について解説したいと思います。

【AIによって奪われる仕事の基準】前回お伝えしたように現在のAIには、これだという明確な基準はありませんが、機械学習と呼ばれる技術が用いられていることが多いです。機械学習とは、ひと言で言えば大量のデータからルールやパターンを機械が自動で抽出する技術のこと。すなわち「AIに仕事を奪われる」とは、「機械学習で実現可能な仕事はAIによって奪われる可能性が高い」と言い換えることができるでしょう。

 具体的に見ていきましょう。例えば、工場の最終工程にある「検品」作業を行うAIを開発したい場合、具体的には生産ラインを監視しているカメラが撮影した画像の中から、不良品や異物を判定するAIを開発することになります。そのためにはまず、生産ラインを監視しているカメラが撮影した大量の画像を収集し、そこに写っているものが良品なのか、あるいは検品ではじくべきものなのかを人が判断した結果を付与します。

 次に、それらの画像をコンピューターに学習させます。AIは学習過程で、良品や不良品の特徴を抽出し、判定ルールを確立します。これにより、あらかじめ学習させた画像だけでなく、学習していない新しい画像に対しても良品かどうかを判定することができるようになるのです。

 このようにAIの開発にはデータが必要で、AIの性能はデータの質と密接に関わります。端的に言ってしまえば、「データで表せる仕事はAIに奪われる可能性がある」ということです。一方で、データで表せない仕事や、データからだけではルールを十分に抽出できない仕事、そもそもルールやパターンが存在しない仕事については機械学習で実現することは難しいでしょう。

 ただし注意していただきたいのは、今現在データ化されていないだけでデータ化できる仕事はたくさんありますし、ルールやパターンが存在しないと思っている仕事も、人がそう思い込んでいるだけで、実際はデータの奥底にルールが存在していることもあります。

 かつてAIに奪われない仕事として高度な知識や思考力が要求される仕事、クリエーティブな仕事が挙げられることがありましたが、昨今の深層学習技術の進歩により、このような仕事も例外ではなくなってきているのです。

【AIによって代替されると思われる仕事】
・トラックドライバー
・ウエーター、ウエートレス
・薬剤師
・受け付け業務
・一般事務

【AIによってなくなる職業、生き残る職業】具体的に職業を見ていきましょう。医師の仕事にしても少なくとも一部の診断については、AIの画像認識技術等によって置き換わる可能性があります。例えば肺がんの発見は、胸部レントゲン画像から肺がんの可能性がある異常な陰影を探すことで、まさに機械学習の得意分野です。

 一方で、患者との高度なコミュニケーションをAIが代替するのは現在のAIには難しいでしょう。言葉によるコミュニケーション自体はデータ(テキスト)で表すことができますが、コミュニケーションに不可欠な言葉の意味や常識をどのように表現すべきかはまだわかっていません。

 実際にコミュニケーションはあまりにも複雑で、データから抽出したルールだけで成り立たせることは難しいです。従って、高度なコミュニケーションを主体とする職業、例えば教師や介護士などはAI時代においても生き残る仕事であると考えられます。

 一方でクリエーティブな仕事の代表格とも言えるコピーライターはAIの言語生成技術によって置き換わる可能性があります。言語生成技術(GPT―3)とは、「今日は」の次に「晴れ」を出力するといったように、ある単語列の次の単語を確率的に求めるもので、その登場によりその精度が飛躍的に向上しました。言語生成技術の向上は、新聞記者や作家、ライターといった仕事をAIが担えるようになる可能性を高めています。

 ほかにも画家についてもすでにAIが開発されており、実際にAIが描いた絵が高額で取引された例もありました。創造とは、無から有を生み出しているのではなく、これまでの経験や蓄積から何かを生み出しているのだとすると、やはりAIにも可能であることがわかるでしょう。

 ここまで「AIによってなくならない仕事」とは人にしかできない想像力を発揮する仕事とお伝えしてきました。しかし、これまでAIにはできないと思われていたことも、技術の進歩によって可能になってきています。今後もそれは加速するでしょう。AIの進化を恐れるのではなく、人間にしかできないことは何かを考えるきっかけと捉え、いま一度自分の仕事を見つめ直してみましょう。

【AIによっても代替されない、生き残ると思われる仕事】
・エンジニア
・看護師
・営業
・研究者
・介護士

 ☆おおにし・かなこ 愛媛県出身。2012年お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。博士(理学)。同年、NTTドコモ入社。16年から2年間、情報通信研究機構に出向。一貫して雑談対話システムの研究開発に従事。20年から大手IT企業にてAIの導入や設計をリード。AIに関する講演や執筆、監修等も行う。著書に「いちばんやさしいAI<人工知能>超入門」。