【どうなる?東京五輪パラリンピック(41)】逆境をプラスに変える! 新型コロナウイルス感染拡大の影響で練習拠点の閉鎖も相次ぎ、多くのアスリートが制限を強いられる中でも、ユニークな方法で己の技術を磨く女性がいる。“空手界の綾瀬はるか”こと女子形の清水希容(26=ミキハウス)は、最先端のオンライン指導でさらなる進化を目指している。悲願の金メダル獲得へ向け、Vロードを突っ走る来夏のヒロイン候補が本紙の取材に応じ、五輪に懸ける思いを激白した。

 五輪競技に初めて空手の採用が決まり「世界選手権で優勝して五輪に行こう」と、清水が2020年に向けて決意を固めたのは4年前。国内外の主要大会で頂点に立ち、東京五輪の代表権も確実なものとして、万全な状態で今夏の大一番に挑むはずだった。しかし、3月24日に延期の一報が入ってきた。

 清水:その前にいくつも大会(プレミアリーグ)がなくなっていて、一番直近の部分ではそこに合わせていたので、悔しい部分はありましたけど、五輪が延期になるのも、延期って言われる前からそういう雰囲気はあったので仕方がないです。こういう状況で五輪はできないと思うので、もう仕方ないなという思いです。

 当初は動揺を隠せなかったものの、すでに気持ちは切り替えている。五輪の選考会が続く中ではシーズンオフの時間がなく、自分の癖を直したくても、試合があると手を付けられなかった。そのため、時間ができた現在は基礎に重点を置いて練習に励む日々を過ごしている。

 清水:基本の中でもただ基本をやるだけではなくて、自分の形に生かせる基本のやり方をしながら自分の癖をしっかりと取り除いています。形だけでは直せない部分もやっぱりあるので、基礎の部分をしっかり直すことを意識しています。

 普段は大阪と新潟を往復しながら練習に取り組んでいる。だが今は、感染リスクを考慮して移動は自粛中。自宅の一室に3~4メートル四方のマットを敷いて練習場所を確保している。指導を仰ぐ古川哲也コーチとコミュニケーションを図ることができないため、現在はオンライントレーニングを行っているという。

 清水:週3日、古川先生とオンラインで2時間ほど(指導を)やってもらっています。やっぱり細かいところを直しているので、一気に課題をもらうのではなくて、今どうやって直したらいいかとか、どういうふうに意識しようかっていうところの課題を毎回くれて、練習をして、またオンラインをして、みたいな感じを繰り返しています。

 対面で稽古ができないデメリットはある。「受ける感覚」や、実際に突きを入れる感覚は練習ではできない。それでも、このような状況下でオンライン指導を受けられることに感謝している。

 清水:(シーズン中も)動画で指導を受けるときもありましたし、逆にタイムリーに話ができるので、そこはありがたいなと思っています。以前、こうやって試合や大会がない時期を経験したときは、オンラインがなかったというか、そういう知識がなかった時代だったので。

 想定外の事態に見舞われても、自身の課題を見つめ直し、鍛錬を重ねるメンタルの強さが清水の真骨頂。大一番が来夏に延期となっても目標はぶれていない。

 清水:五輪で一番いいもの(金メダル)を目指しています。延期期間が1年になろうと目指すところは変わらないので、やることは変わらないと思います。少しでも勇気を与えられるような試合をしたいですし、今まで通り会場と一体となって、いい演武をしたいです。

 3連覇を狙った18年の世界選手権では、サンドラ・サンチェス(38=スペイン)に敗れて2位に終わった。ライバルに打ち勝ち、夢を現実に変えるため、東京五輪の舞台でひと皮むけた姿を披露する。

【内定の五輪切符どうなる?】世界空手連盟(WKF)は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で五輪代表の選考大会が一部中止になったことを受け、3月18日に男子形の喜友名諒(29=劉衛流龍鳳会)、女子形の清水ら8選手の東京五輪代表内定を承認した。

 しかし、東京五輪の延期が決まったことで、WKFは中止した大会の再開催を検討。五輪ランキングに変更が生じる可能性も浮上したため、全日本空手道連盟は先月2日、WKFから正式発表が出るまで内定選手の扱いを保留すると発表した。今後については、WKFが選手選考の詳細を決定後、全空連内で協議を行い方針を示すという。

☆しみず・きよう=1993年12月7日生まれ。大阪府出身。9歳から空手を始め、東大阪大学敬愛高校3年時には高校総体で日本一に輝いた。関大進学後、20歳で出場した全日本選手権の女子形で史上最年少Vを達成し、現在まで7連覇中。2014年には世界選手権で初優勝を果たすと、16年大会でも頂点に立った。気迫を前面に出す力強い演武が特徴で、東京五輪では金メダル候補として期待を集める。160センチ、57キロ。