【東京五輪 祭典の舞台裏(7)】東京五輪ボクシング女子フェザー級で同競技では日本女子初の金メダルを獲得した〝おじぎ姫〟こと入江聖奈(20=日体大)が本紙の独占インタビューに応じ、人生を激変させた五輪を振り返った。海外を魅了した試合中のおじぎの裏話、本番前から感じていた重圧、さらに自身のボクシングを揶揄(やゆ)して世間から批判を浴びた「張本発言」にも初めて言及。全ての質問に笑顔で一発回答してくれた。

 ――金メダル獲得は本紙の1面を飾った

 入江 (紙面を見て)ハハハ、おじぎ姫! ありがとうございます。ただ、あれは審判への印象を良くしようと思ってやったので、褒められるものではなくて(笑い)。減点されたら終わりなので、注意が怖くてやっていました。これからも「おじぎ姫」でお願いします!

 ――金メダルを取った実感は

 入江 いまだにないです。手元に金メダルがありますが、テレビで見てきた金メダリストたちと私が同格とは全然思えないし、自分が世界一のボクサーとも全く思っていません。ただ、五輪前からメダルを取るか取らないか以上にメダルの色で明確に差が出ると思っていました。そういう意味で五輪が怖かったです。普通の大会以上に結果だけで明暗が分かれる。ちょっと残酷な大会だなって思ったりしました。

 ――周囲の反響は

 入江 街で声をかけられるようになり、ツイッターのフォロワーは800人から2万4000人に増えました。みんなと同じことをしていても金メダリストという付加価値がつき、良くも悪くも行動が注目される。信号無視とか絶対にできないですし(笑い)。イヤホンで音楽を聴きながら自転車通学することすら引け目を感じてしまう。イイ子キャラになっているのがちょっと怖いですが、人生が変わったなって思いますね。

 ――SNSの声は気にするタイプか

 入江 エゴサーチは普通にしますよ。今のところ褒めてくれる方が「9」、ちょっとディスリが「1」くらいなので、心情的には自己肯定感が高められています(笑い)。

 ――選手村の思い出は

 入江 ホントに普段と同じような生活でした。私は友達が少なくて、どっちかというと「陽」じゃなくて「陰」。インドア派ですし、絶対にパリピにはなれない(笑い)。選手村でも基本的に部屋に引きこもってゲームをしていました。大会期間中はずっと「パワプロくん」で甲子園を目指していました。

 ――五輪後はテレビに引っ張りダコ。印象に残った芸能人は

 入江 呼んでいただき、ありがたいです。フワちゃんと何度か共演させてもらったんですけど、メイクする前の楽屋にあいさつに行った時は〝フワさん〟って感じでしたが、メイクがバチッと決まっていつものカラフルな衣装になった瞬間に〝フワちゃん〟に変身。あの切り替わり、プロ意識はすごいな!って思いました。

 ――張本勲氏の発言に触れてもいいですか

 入江 初めて質問されましたね。私は張本さんに関して特に何も思っていません。「殴り合い」に関してはボクシングって原始的な闘争本能が必要ですし、「お嬢ちゃんが」の部分に関しては、自分が五輪でもっと高度な駆け引きや技術力を見せられれば良かっただけの話。逆に今回、(世間の反応から)女子ボクシングに対してこんなにポジティブな考えを持っている人がいるんだーって感じましたね。

 ――張本氏本人は悪気はないようで

 入江 はい、分かりますよ。そういう考えの方は一定数はいると思いますし、逆に自分がおばあちゃんになって孫がボクシングを始めるって言ったら「女の子なのにー」って絶対に言っちゃうと思います。そんなに過敏になる必要もないかなって感じていました。(味方をしてくれた)皆さん、私を助けてくださったのに、こんなこと言って申し訳ないんですけど。

 ――張本氏に「喝」か「アッパレ」を

 入江 そうですねー。いろんな意味でボクシングにスポットを当ててくださったので「アッパレ!」です(笑い)。

【張本氏の発言】野球評論家の張本勲氏(81)はTBS系で8日に放送された「サンデーモーニング」で入江の金メダル獲得を取り上げた際に「嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね。こんな競技、好きな人がいるんだ」などと女性差別や競技への侮蔑と受け取れる発言をして大きな批判を浴びた。同番組は15日の放送で謝罪したが、張本氏の前に女性キャスターが謝罪文を読み上げた点や、張本氏自身が約5秒間謝っただけで終わったことなどから、世間のさらなる反発を招いた。