【ボクシング】東京五輪女子フライ級代表・並木月海 幼なじみの天心へ宣戦布告「今のうちに顔に5、6発くらい入れてやろうかな」

2021年06月10日 11時00分

並木(右)と那須川は幼稚園時代から互いに切磋琢磨してきた“戦友”だ

 東京五輪ボクシング女子フライ級代表の並木月海(22=自衛隊)は生まれながらの「格闘サイボーグ」だ。“キック界の神童”こと那須川天心(22)とは幼なじみで、4歳で始めた極真空手で初対戦。高校時代には何度もスパーリングを行い、切磋琢磨した。格闘技に魂をささげた半生に迫るとともに、何の因果か同じボクシングの道で「世界最強」を目指すことになった盟友・那須川への思いを語った。  

 身長153センチ。街で出会ったら、まさか格闘家とは思わないだろう。だが、この小さな体には格闘の血が流れている。4人きょうだいの末っ子。姉と兄の影響を受け、幼稚園年中で極真空手を始めた。おままごとで遊ぶ友達を尻目に、道場へ通って汗を流した。

 並木 結構、両親が放置するタイプで(笑い)。かすり傷は普通で、試合中に骨にヒビが入ってもトーナメント中だと負けるまで出ていたし、骨折したまま戦ったこともありました。でも、きょうだいと取っ組み合いをしたことはなく、いつも口ゲンカで泣かされていましたね。

 幼稚園年長で運命の出会いが訪れた。関東支部大会に出場すると、あれよあれよと勝ち進んで決勝戦。その相手が今をときめく那須川だった。おぼろげな記憶だが「あっという間に負けたのは覚えている」。格闘人生の初黒星であった。

 その那須川に誘われ、小学4年からキックボクシングを始めた。中学入学時に「普通の女の子に戻りたい」と路線変更して格闘技から離れたが、わずか1年で血が騒いだ。普通の生活に物足りなさを感じたのだ。導かれるようにボクシングジムに入会すると、一気に才能が開花。花咲徳栄高時代はなんと27戦無敗。土台をつくったのは那須川とのスパーリングだ。

 並木 高校3年のころは週2回くらい、天心の練習場(千葉・松戸市)へ出稽古に行きました。もともと女子選手が少なく、高校時代は男子とやるのが基本。でも、特に天心はパンチがうまかったので、貴重な練習でしたね。お互いに切磋琢磨しながら上がってきた感じです。

 高校卒業後は自衛隊に進み、2018年の世界選手権銅メダルを獲得。昨年3月、五輪アジア・オセアニア予選(ヨルダン)で準優勝を飾り、ボクシング日本女子初の五輪出場が内定した。だが、直後に新型コロナウイルスの影響で五輪が延期となり、今も国民の間で中止を求める声が後を絶たない。それでも「自分は格闘技だけをやってきた人間。金メダルを取ることだけを目指す」と気持ちにブレはない。

 4月上旬の愛媛合宿では同じ階級の男子高校生と試合形式で対戦し、見事に3戦全勝。敗れた男子選手は「速さについていけなかった」と白旗を掲げた。このスピードが並木の持ち味だ。五輪で戦う海外勢は自分よりリーチが長いが、足を使って俊敏に動き回り、素早く懐に入り込んでパンチを当てる。ボクシングには「打たせず打つ」という鉄則があるが、並木の格言は「打って、打たせず、打つ」。常に自分からアクションを起こし、試合の展開をつくることを意味する。

 普段は控えめな22歳。人前に出ることも苦手だが、リングに上がると人格が変わる。

 並木 授業中に発表したり、カラオケで歌うのは緊張するんですが、なぜかリング上で注目されるのは楽しいし、ワクワクする。シューズを履き、グローブを着けると、パッとスイッチが入る。リングに上がって、普段にはない別の自分を出せるのがすごく好きなんです。

 インタビュー中、一度だけスイッチが入った瞬間がある。那須川に敗れた話をした時だ。来年からボクシングに転向する話題になると「まだ天心は本業じゃないので、今のうちに顔に5、6発くらい入れてやろうかな(笑い)」と宣戦布告。その目には明らかに闘争心が宿っていた。

 並木の野望は「東京五輪金メダル」と「女子ボクシングの普及」。だが、今も昔も「将来の夢は?」と聞かれると、決まって「お嫁さんになること」と答える。そこで「那須川との“電撃結婚”の可能性は?」とムチャぶりした。

 並木 天心と、ですか? いやー、さすがにちょっと、ないですね(笑い)。結婚相手は逆に格闘技とかやっていない、優しい人とかがいいかなあ。

 やはり那須川はパートナーではなく戦友。初対戦から約16年、紆余曲折を経て2人の第2ラウンドが始まろうとしている。

【那須川からエール】那須川は2022年3月に立ち技格闘技イベント「RISE」でキックボクサーを引退し、ボクシング転向を発表している。物心ついたころから格闘技界で宿命的に交わる幼なじみを「なかなかいないお互いに高め合える存在」と表し、高校時代にスパーリングした時の印象を「パワーが半端ない。男かと思った」と振り返る。
 幼稚園で出会ってから四半世紀。ともに世界最強を目指す戦友に対して「お互いにやれるところまでやり切ろう!」とエールを送った。

 ☆なみき・つきみ 1998年9月17日生まれ。千葉・成田市出身。幼少期から極真空手、キックボクシングを習い、中学2年からボクシングを始めた。花咲徳栄高(埼玉)時代は片道2時間半かけて通学。那須川のジムに通ってスパーリングも行った。2018年の世界選手権女子フライ級で銅メダル。東京五輪出場なら日本女子ボクシング第1号となる。左ファイター。153センチ。きょうだいは姉と兄2人。

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