タイとカンボジアが国境付近にある世界遺産「プレアビヒア寺院」周辺で軍事激突した件はトランプ米大統領が停戦要求する事態となった。5月に銃撃戦が発生し今月24日にも武力衝突。これまでに民間人を含めて30人以上の死者を出している。一体何が原因だというのか。先月、現地を訪れた写真家の郡山総一郎氏が解説した。

 両国の国境問題は20世紀初頭にさかのぼる。フランスがカンボジアを植民地化し、タイとの国境を定めたのだが、かなりいい加減なものだったのだ。結果としてプレアビヒア寺院がどちらのものかをタイとカンボジアで争うことになった。

プレアビヒア寺院周辺の道路にはたくさんカンボジア兵士の詰め所がある(撮影=郡山総一郎氏)
プレアビヒア寺院周辺の道路にはたくさんカンボジア兵士の詰め所がある(撮影=郡山総一郎氏)

 同寺院は9世紀にヒンズー教寺院として建設。郡山氏は「崖の上に建っています。タイ側からは行けないのでカンボジア側からアクセスします。日本から訪れた場合、飛行機などすべての乗り換えがスムーズにいったと仮定しても12時間以上はかかります」と話した。カンボジアではアンコール・ワットが有名で、同寺院も観光スポットなのだが5月に銃撃戦が起きてからは観光客の姿はなくなったという。

「長年、国境周辺では小さなイザコザがよくありました。5月の銃撃戦ではカンボジア兵士が死亡しましたが、双方とも『相手が先に撃ってきた』と主張してます。現地で取材すると、どうやらタイが最初に撃ったんじゃないかとささやかれています」(郡山氏)

 同寺院を巡って両国は長い間、対立してきたが、カンボジアが国際司法裁判所に提訴して、1962年にカンボジアの主権が認められる判決が出ていた。さらにカンボジアは同寺院を世界遺産に申請。2008年にこれが認められたことにタイは反発し、一触即発の事態にもなった。「国際的には寺院がカンボジアのものと認められているのですが、実際は寺院周辺の国境線はかなり曖昧なのです」(同)

 軍事力では圧倒的にタイ軍が上だ。「現地住民によると、夜になると付近をタイのドローンが偵察するそうです。タイの軍事費はカンボジアと比べて10倍は上なので、まともにやりあったらカンボジアが3日間もつかどうかというところ。カンボジア軍の装備はコピー品のAKにビーチサンダルですから」(同)

 これまでも国境線でニラミ合ってきた両国だが、ここまで大ごとになったことはなかった。現地ではいくつか紛争の目的がささやかれている。「カンボジアのフン・マネット首相の父であるフン・セン元首相は今も権力を持っているのですが、彼はタイのペートンタン・シナワット首相が嫌いだというのです。タイ首相を引きずり降ろしたいという意図があるといいます」(同)

 実際に6月に行われたペートンタン首相とフン・セン前首相による電話会談の音声が流出。ペートンタン首相がカンボジア側におもねるような内容だったことからタイ国内で批判が殺到し、現在は首相として一時職務停止中だ。音声を流出させたのはカンボジア側だとされている。

プレアビヒア寺院周辺で洗濯物を干すカンボジア兵士の家族(撮影=郡山総一郎氏)
プレアビヒア寺院周辺で洗濯物を干すカンボジア兵士の家族(撮影=郡山総一郎氏)

 それでなくてもタイは観光客の減少に悩んでいた。そこに今回の軍事衝突が起きた。「これによってタイの観光客はますます減って苦しくなりそう。軍事的にはカンボジアが負けても、実際にダメージを負うのはタイとなりそうです」(同)。タイ国内ではペートンタン首相はもともと人気がないというが、今回の件でさらに厳しい目が向けられるようになるというわけだ。

 トランプ氏が介入したことで停戦の流れもある。タイ政府は27日、マレーシアの招きを受けて、プムタム首相代行らが28日に同国を訪問し、カンボジアと協議すると発表した。「タイは第三国の仲介に否定的です。カンボジアは無条件の停戦を求めていますが、タイとしては条件を出したいのでしょう」と、郡山氏は即解決とはならないと指摘。予断ならない状況だ。