オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第208回は「あなじ」だ。

 冬になると、吹く風のことを指してこう呼ぶ。この風、つまり「あなじ」が吹くと大火が起こると言われている。ある意味、火事を呼ぶ不吉な風と解釈された。冬季に火災を警戒するために、教訓的妖怪とされた可能性も高い。

 非常に強力な風で、鉄製の風車さえも簡単に回したという。このため鉄製の風車はあなじの予兆を人間にあらかじめ知らせたとされる。鉄製の風車が回った時は注意しなければならない。

 風に関する妖怪と言えば、東京都青梅市に伝わる「百いらず」が思い出される。この妖怪は、山から吹き下ろす風であり、この風が吹いた場合、たとえ道端に百文が落ちていても、決して拾うことなく、逃げ出すと良いとされた。

 他にも、中部地方で伝承されている風に「ダイバ風」というものが存在する。これは牛馬を殺してしまう存在であり、小さな虫の形をとっている。これなども多くの庶民から大変恐れられた。

 季節の変わり目に山から吹き下ろす風は、得てして庶民に不吉なことをもたらした。そのため、風そのものが疫病神とされたのであろうか。「風の神」と称する疫神の絵画も残されており、これなどはもろに病気そのものを拡散している。