オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第207回は「口縫い」だ。

 俗に言うところの教訓妖怪である。つまり、子供に教訓を与えるための妖怪である。言い換えれば、実体験を伴う妖怪ではない。だが、貴重な妖怪の一種なのでここに取り上げる。

 この妖怪は、生意気なことを言ったり、悪口を言ったりして、先生や両親にたてついたり、友達を泣かしたりする子供に憑依する妖怪である。

 基本的に人間の肉眼では目撃することができない。魔法の針と魔法の糸を持ちながら空中を漂っており、憎まれ口や悪口を言う子供を見つけた場合、その肩に乗って子供の口を縫ってしまう。

 縫われた子供は、口の端っこがチクリと痛むが、特に違和感は感じない。しかし、嫌な言葉遣いを続けていると、口がだんだんとふさがってくる。「口縫い」が口をふさいでしまうのだ。

 この手の教訓妖怪の代表的存在として「もったいないお化け」が挙げられる。これは子供の好き嫌いをなくすために考案された妖怪であり、大根やにんじんなど子供が嫌いな野菜の姿をしている。嫌いな食べ物を食べない子供がいた場合、夜寝ている時に、このもったいないお化けが出てくると言われた。

 なお、教訓妖怪の場合、現代における商用ベースで作られたものが多いが、伝承上でも語られている。鎌倉のある湖では、水の事故から子供を守るために「大蛇が住んでいる」と言われた。他にも、川や沼では「カッパが生息する」という伝説が作られた。これも子供を守るための知恵であった。