【昭和90年代の人々】ふかふかとした小動物的な見た目と、愛くるしい表情で昭和の時代を席巻したぬいぐるみ「モンチッチ」。一度は国内生産を休止しつつも、今年誕生50周年を迎えた名キャラクターは、〝昭和レトロブーム〟で再注目されている。販売会社・セキグチの幡野友紀シニアマネージャーに、モンチッチの歩んだ歴史と長く愛される秘訣を聞いた。
――モンチッチ以前はどのような事業を?
幡野友紀氏(以下、幡野) もともとは1918年に創業しまして、当初は布糊(ふのり)を作っていたと聞いています。その後はセルロイド人形の生産等をしていましたが、発火性が問題になってからはソフトビニール人形の生産にシフトしていました。
――主力商品は人形だった
幡野 当時は〝お人形のセキグチ〟と言われるくらい、さまざまな商品を生産していましたが、現会長が「世界に売れる商品」を作りたいと考えた時に、人形ではそれが難しいと判断したんです。
――どういうことですか?
幡野 やはり人形は「人の形」と書きますから、どうしても人間をモチーフにして作ることになります。ですが人それぞれ髪の色や瞳の色も違うので、1つの人形で全世界の子供に親しみを持ってもらうということに関しては壁があるということも確かで。それに対して動物のぬいぐるみを作れば、どんなお子さんにもアピールすることができます。そういった観点から生産をシフトしたという経緯になっています。
――現在は「ぬいぐるみのセキグチ」と紹介されています
幡野 カタログに掲載している商品もほとんどがぬいぐるみですし、生産の9割以上がぬいぐるみという状況になりました。ただ、人形とぬいぐるみは「立体のかわいいグッズ」として同じカテゴリーで捉えられている方も多い一方、作り方は全く違うんです。1つの型から大量に生産できる人形と違って、ぬいぐるみは1つ1つミシンで縫う必要がありますから。開発当初は苦労があったと聞いていますね。
――その中でモンチッチが考案された
幡野 モンチッチの前身である「くたくたモンキー」から、手足がふにゃふにゃとした作りにしていました。というのも、当時の社長(現会長)が以前ヨーロッパの市場を視察した時に、生まれたての動物の赤ちゃんを再現したぬいぐるみを見て感銘を受けたそうで。くたくたとしていながら、かわいらしい姿にヒントを得て開発したと聞いています。
――モンチッチの手足や顔にはソフトビニールも使われています
幡野 ぬいぐるみは柔らかいかわいさを表現できる一方で、なかなか顔の複雑な表情は出せないんですね。それとは反対に人形であれば、どんな表情も再現できますので。これまでずっと成型をしていた会社として、ぬいぐるみと人形をハイブリッドさせる形でモンチッチへの道筋ができました。ですが両方の技術を盛り込んだ分、現在もモンチッチを生産できる工場は限られてしまっていまして。安定生産のためにも新たな海外拠点を見つけたいのですが、なかなか難しいというのが現状です(苦笑)。
――会社の歴史を反映した商品ということですね
幡野 ずっと人形を生産していればいい、という会社であればモンチッチは生まれなかったでしょうし、ぬいぐるみに方針転換した時に人形の技術を忘れていたら、今のデザインにはならなかったと思いますから。そういった意味では会社のこれまでの道のりを生かした、奥の深いキャラクターになっていると思います。
――発売直後からブームとなった理由は
幡野 発売当初は積極的にCMを流していた訳ではありませんし、価格も1000円と当時としては少し値が張っていたと思うのですが、「店頭に置いたら羽が生えたように売れた」という話は聞いています。加えて当時子供だった方から「親に買ってほしいとねだった」と教えていただくこともありますね。実はこのブームは日本だけではなくて、75年から販売したヨーロッパでも同じ現象が起きたんです。ですから海の向こう側でも、モンチッチの持つかわいさは通用したのではないかなと思います。全世界の累計販売数も、ありがたいことに7000万体を突破しました。
――一方で生産を休止した時期もあった
幡野 今でこそ50周年ということで大々的に動いていますが、発売した当時はあくまでも1商品として捉えていたということも事実で…。販売から10年近く経過してブームは落ち着いていましたから、メーカーとしても新商品のサイクルを回すために、ごく普通の決断として休止しました。しかしいざ販売をお休みすると、我々で想像していた以上にモンチッチを求めるお客さまの声が国内外からありまして。それを受けて96年に〝再デビュー〟して以来、二度とキャラクターとして終了することはなく、会社が続く限りモンチッチと歩んでいこうと皆で決意しました。
――現在も発売当初からのファンが多い?
幡野 もちろんその世代の方は多い一方で、最近はファン層の広がりを感じています。モンチッチの公式インスタグラムでも、フォロワーの方は20~50代までバランス良くいらっしゃるので。イメージとしてはデビュー時のモンチッチを知っている方がフォロワーの3割程で、それよりも下の世代の方が今は多数派という印象ですね。
――ファンの新規開拓も強く意識を?
幡野 はい、96年の再デビュー、そして2004年の30周年の頃から、キャラクターとしての展開をすごく意識するようになりました。モンチッチが歴史を重ねていく中で次の世代、そのまた次の世代に好きになっていただかないと、どんどんコアな商品になってしまうので…。ずっと好きでいてくださる方にはもちろん感謝しつつ、いろいろなプロモーションやコラボレーションに取り組んでいます。それこそエアギターのような「モンチッチがそれをやるの?」ということにも挑戦していますよ。
――2010年のエアギター日本大会で、モンチッチが準優勝した
幡野 もう10年以上前と考えると隔世の感がありますね…。私たちとモンチッチくんで、毎日夕方になるとショールームで練習していたのはいい思い出です(笑い)。
(後半ではコラボや新事業の背景や、昭和レトロブームの影響についても聞きました)
☆モンチッチ(もんちっち) 株式会社セキグチが1974年に販売を開始したぬいぐるみおよびそのキャラクター。人形とぬいぐるみを融合した新感覚の商品として話題を呼び、発売当初から大ヒットを収めた。80年代には一時的に国内生産を休止するも、96年に〝再デビュー〟。その後もさまざまなコラボ・プロジェクトを経て、今年誕生50周年を迎えた。
















