【取材の裏側 現場ノート】大相撲の元大関栃ノ心氏(36)が、4日に東京・両国国技館で断髪式を行った。角界屈指の怪力を武器に活躍し、昨年5月に引退。慣れ親しんだまげに別れを告げると「寂しい気持ちもありますけど、次の人生が楽しみ」と晴れやかな表情を見せた。同氏は母国ジョージア産のワインなどを日本に輸入する会社を設立。今後はビジネスマンとして第2の人生を歩む。

 現役時代の栃ノ心氏から聞いた忘れられない言葉がある。2018年初場所で初優勝を果たし、祖国では国民的英雄となった。翌年の夏場所後に凱旋帰国し、現地の空港には出迎えの人々が殺到。警察官からも記念撮影を求められるほどの熱狂ぶりだった。日本へ戻ってきた栃ノ心氏に話を聞くと「すごいよ。オレを知らない人はいない。神様みたい(笑い)」。

 やがて神妙な顔つきに変わり、母国での出来事を語り始めた。「ジョージアでも、いろいろあるんだ。(国民同士が)ロシアのことでケンカしたり。人から言われたのが『あなたの相撲がある15日間だけは、ジョージアで皆の気持ちが一つになっている。敵も味方も一緒になって、あなたを応援している』と…。それを聞くと、すごく頑張ろうという気持ちになる」

 ジョージアが隣国ロシアを巡って複雑な国内事情を抱えていることは、この時の取材で初めて知った。記者は己の無知を猛省しつつ、栃ノ心氏が背負っているものの大きさを垣間見た気がした。スポーツは人々の心を一つにする。そのことを、文字通り体現した力士だった。(大相撲担当・小原太郎)