【土俵の深層(下)】今年の大相撲で、最も期待されていた力士は誰か。多くの親方衆が活躍を予想したのは、元大関の高安(33=田子ノ浦)だった。昨年は6場所のうち3度、千秋楽まで優勝争いに加わった。いずれもV逸に終わったものの、その充実ぶりから初優勝は時間の問題とみられていた。しかし、右ヒザや右太もも、古傷の腰痛など相次ぐ故障に泣き、またしても賜杯には手が届かなかった。

 高安にとって、初優勝は長年の悲願だ。その思いは、土俵外の行動にも表れていた。東京・両国国技館にほど近い野見宿禰神社。「相撲の神様」「勝利の神様」として古来から伝わる野見宿禰(のみのすくね)がまつられている。近年は老朽化が目立っていた中、日本相撲協会が昨年秋に改修。年が明けた元日午前0時には社(やしろ)を開放し、多くの初詣客を受け入れた。

 その参拝の列の中には現役力士では唯一、高安の〝姿〟もあった。当時はコロナ感染対策による外出制限期間中。そこで「優勝」の2文字を記した色紙を関係者に託して神社に奉納し、スマホのビデオ通話機能を利用して〝リモート必勝祈願〟も行った。外出制限が解除された5月の夏場所前には、自ら足を運んで初参拝も果たしている。

 優勝報告は来年へ持ち越しとなったが、復調の兆しもあった。一年納めの九州場所は優勝した霧島(陸奥)を含む2大関を倒し、2場所連続の10勝をマーク。初場所(1月14日初日、国技館)で1年ぶりの三役復帰を確実にした。その高安は「今年はケガもあって、体調の調整が難しかった。来年は優勝争いに絡みたい」。相撲の神様は、悲運の元大関にほほ笑むか。