【松本薫の野獣道(12)】金メダルがかかったロンドン五輪決勝。攻める上では相手に平常心を保たてさせないことが一番大事なんですよ。ゴールデンスコア(延長)に入ると、みんなポイントを狙いにくるじゃないですか。私は攻めて攻めて「次に技をかけないと指導がくるのでは」と相手の思考回路を焦らせることを意識しました。

 戦法を切り替えて戦ったら、相手がじりじりして足を後ろから引っかけてくれ、反則勝ちで優勝が決まりました。きれいな勝ち方ではないし、見ている人は「どうやって勝ったんだ?」みたいな感じだったでしょう。日本柔道っぽくない勝ち方かもしれない。目指してきたのは一本で勝つ美しい柔道ではなくて、勝つことに固執し、金メダルを取ってお母さんの首にメダルをかけてあげることでした。どんな勝ち方でも絶対にメダルを取りたいという気持ちが決勝戦の最後に表れたのかなと思います。

 試合後には自然と涙があふれてきました。あの瞬間まで正直うれし泣きって知らなかったんですよ。泣くという感情を忘れていたのですが、あの時初めて勝手に涙があふれるうれしさ、安堵感を経験しました。審判の旗がパンと上がった瞬間、5歳から始めた柔道人生が一気に走馬灯のようにグワーッと巡ってきて「やってきたことは間違いじゃなかったんだ」と初めて自分を肯定できた瞬間でした。

 金メダルをかけてもらった瞬間からは「ずっと夢かな?」みたいな感じで「明日起きたら試合とかないよね?」と変なことを考えていました。なので「夢だ夢だ」と言い聞かせました。小中学生のころは、勝つ気もなかったし、高校生は問題児だった私が表彰台に立つワケないよなと。でも次の日の朝に起きたら、ちゃんと金メダルがありました。あ、夢じゃないんだなって(笑い)。

 その日は各テレビ局のインタビューを受けたのですが、その時に(歌手の)福山雅治さんに会ったことが思い出に残っています。試合前は生理が止まることが多く、五輪の半年前から来なくなってました。試合前は女を消すんですよ。“野獣”になるタイミングがあって、つくり込んでつくり込んで女を消していました。でも、私は本当に福山雅治さんが大好きで、見た瞬間に気づいたらハグをしていました。福山さんに抱きしめられた瞬間、もう女になりましたね。しかもハグされた瞬間に生理が来て「やばい、やばい」ってトイレに駆け込んだくらいですから(笑い)。