駒大から世界へ――。1月の箱根駅伝で2年ぶりの総合優勝、史上5校目の大学駅伝3冠に輝いた駒大の大八木弘明総監督(64)が、単独インタビューに応じた。箱根駅伝後に陸上競技部の監督を退き、総監督に就任。昨年の世界選手権で男子1万メートルに出場した田澤廉(22=トヨタ)をはじめとするまな弟子の指導にあたっている。新たなスタートを切った名伯楽が28年間の監督人生を振り返るとともに「Z世代」の選手たちとの向き合い方、チームづくりの秘訣などを激白した。
――総監督になった心境は
大八木氏(以下、大八木)やはり指揮官を譲るということや、箱根でのマイクパフォーマンスができなくなった点での寂しさはあります。でも、今は「子供たちを世界に」という思いの方が強くあって。田澤、(鈴木)芽吹、佐藤圭汰、篠原(倖太朗)みたいな選手たちが「世界を目指したい」ということを言ってきたから、駒沢大学から世界に行ける選手を多く出したいと思った。世界と箱根、両方を狙っていく。大学でそういう選手を輩出しているところはあまりないので。
――勇退を決めた理由
大八木 女房が28年間、約300人の子供たちのご飯をつくってきて、私が監督を退かないと女房もやめられないところもあったから、もう少しのんびりとした生活を送らせてあげたいなと思いました。私自身も40人見てると体力の限界もあるし、気配りとかで疲れてきたりね。朝5時20分に起きて、グラウンドに5時40分ぐらいに出て(午前)7時過ぎまで練習。それが365日はきついですよ。まあ、それを28年間続けてきたからこその強さがあったとは思う。私が監督に就いてからシード落ちしたのは2回だけですからね。
――総監督になってからの生活は
大八木 以前と特に変わらないですね。まだ田澤の食事は女房がつくって、2月の米アルバカーキでの高地トレーニング合宿も、3月のニューヨーク遠征もご飯をまかなってくれた。これからは田澤と一緒に駒沢の学生も何人か連れて合宿したり、女房も同行して食事をつくってもらう。今まで28年間寮で食事をつくってたから、どこも行けなくてね。外に出られて、やっぱり楽しいでしょう。
――28年間の監督生活での変化は
大八木 子供たちとの接し方が変わりました。今のZ世代の子たちはゲームばっかりやってきたから体力もついてなかったりで、昔みたいに根性論でトレーニングをやらせれば強くなるわけでもない。親に叱られて叩かれたりなんて今の子はないでしょ? 厳しくすると反対にメンタルが落ち込んでいってしまったり。そういう部分の打たれ弱い選手たちが多い。7年ぐらい前から、今の子供たちに目線を下げて、コミュニケーションを取って接してきました。
――今後の目標
大八木 田澤と目指してるところは五輪代表。24年パリ五輪は1万メートル、28年ロス五輪やその先の世界選手権はマラソンで狙おうと思ってます。パリ五輪までは1万メートルで思い切り走って、スピードをつけていきたい。今度の世界陸上(8月、ブダペスト)やパリ五輪では入賞できるぐらいまでになると思う。
――今年度は2年連続3冠がかかる
大八木 新キャプテンの芽吹も、そういった目標を掲げてると言ってましたから期待しています。私が入りたてのころの駒沢は「平成の常勝軍団」と言われて4連覇して右肩上がりで強かった。ようやくこの3年ぐらい前から力をつけてきて勝ち始めて今回が3冠。来年も強いと思うので「令和の常勝軍団」と言われるようにできればうれしい。
――次の藤田(敦史)監督に期待する点は
大八木 連覇をつなげていけるようなチームづくりをしてほしい。8年も私を見てるから私のいいところ、悪いところはわかってると思う。自分が優勝した時のいいところを思い出して、個性も出しながら藤田流の駒沢大学陸上競技部をつくってほしい。
――良いチームをつくる秘訣は
大八木 一番大事なのはこの間のWBCもだけど選手を信じ、スタッフを信じること。お互いに信じ合えないといいチームはできない。今年の箱根も田澤が2週間前にコロナにかかってしまって。でも田澤には走る前もマイクでも「お前を信じてるぞ」と言ってきた。そのひと言が選手たちにも響いたと思う。私も「男だろ」(※)ばかりじゃないからね(笑い)。やっぱり信じる力を指導者も持って。選手も自分自身を信じる力を持ってやってくれれば、自然とチームの輪が出来上がっていくんじゃないかな。
※学生たちを鼓舞するときに使う代名詞的な言葉。
★おおやぎ・ひろあき 1958年7月30日生まれ。福島県出身。83年に24歳で駒大夜間部に入学。川崎市役所に勤めながら大学に通った。箱根駅伝は1年時に5区、3年時に2区の区間賞を獲得。4年時は年齢制限で出場できなかった。卒業後はヤクルトの陸上競技部でコーチと選手を兼任。95年に母校・駒大のコーチとなり、助監督を経て2004年監督に就任。1月の箱根駅伝を区切りに勇退し、4月から総監督として学生を指導している。














