モンスターはどこまでいけるのか――。ボクシングの世界バンタム級3団体統一戦(7日、さいたまスーパーアリーナ)で、WBAスーパー&IBF統一王者の井上尚弥(29=大橋)がWBC王者ノニト・ドネア(39=フィリピン)を2ラウンド(R)TKOで仕留めて圧勝。日本人で初めて3本のベルトを手中に収め、4団体統一に王手をかけた。試合後は階級を上げる意向も口にする中、本紙は井上の「上限」を徹底取材。世界初の偉業の可能性に迫った。

 衝撃的なKO劇だった。開始早々、ドネアの〝宝刀〟左フックをもらったモンスターは、すぐに反撃を開始。1R終盤に右のカウンターでダウンを奪うと、2Rではさらにギアを上げてパンチの嵐でたたみ掛ける。最後は左フックで再びダウンさせ、レフェリーが試合を止めた。試合後は「最高の結果を残せたことにすごく満足している。今日は最高の日になった」と胸を張った。

 今後の目標については「まず、自分が目標としている4団体統一。かなわないなら、スーパーバンタム級(55・34キロ以下)に上げてまた新たなステージで挑戦したい気持ちもある」と話した。残る1本のベルトを保持するWBO王者のポール・バトラー(英国)との対戦を視野に入れつつ、いずれは階級転向が既定路線となっている。

 現在、井上はライトフライ(48・97キロ以下)、スーパーフライ(52・16キロ以下)、バンタム(53・52キロ以下)の3階級を制覇。当時のマッチメークの事情でフライ級を飛ばしているが、このまま階級を上げたら世界でどこまで通用するのか。モンスターの階級の〝限界〟を探るべく、複数の選手に話を聞いた。

 プロデビュー前から井上とスパーリングしてきたWBO世界スーパーバンタム級11位の赤穂亮(横浜光)は「フェザー(57・15キロ以下)かスーパーフェザー(58・97キロ以下)で壁に当たると思います。でもスピードを意識して、欲を出さなければスーパーフェザーで通用する可能性はあると思います」と話す。ジムの先輩で元世界3階級制覇王者の八重樫東トレーナーは「いってもフェザーですかね。それより上の階級となると、試合はできたとしても世界で高いパフォーマンスを求めるのは酷な話。危険を伴う挑戦になると思います」と慎重な意見だ。

 一方で、約1か月前に井上とスーパーリングしたカシミジム所属のゼネシス・セルバニア(フィリピン)は「パワー、スピード、バランス、フットワークと全てがそろっている。パンチも強くて重いので、さらに体をつくればスーパーフェザー級でチャンピオンになる可能性は高い」と言い切った。

 現在より3階級上のスーパーフェザーにはWBC&WBO王者でスーパースター候補のシャクール・スティーブンソン(米国)がいるが、この壁を越えればマニー・パッキャオ氏(フィリピン)、オスカー・デラホーヤ氏(米国)と並ぶ史上最多の6階級制覇で肩を並べる。

 そうなると、ファンの関心は世界初の「7階級制覇」だろう。スーパーフェザー級の1つ上、ライト級(61・23キロ以下)では通用するのか? 本紙が同級の現日本王者・宇津木秀(ワタナベ)を直撃すると「尚弥さんの技術やパンチ力なら、日本のライト級で十分に通用すると思います。もし僕がやったら、ボコボコにされると思いますね(笑い)」と言い、日本王者にはなれると太鼓判。実際、井上はライト級の日本ランカーをスパーリングでなぎ倒している。

 その宇津木は世界挑戦について「さすがに世界となると、難しいですかね。スーパーフェザーとライトには大きな壁がありますので」と懐疑的だが、前出のセルバニアは「彼がライト級で戦えるかどうかは体次第。もし体ができ上がれば…」と条件付きで〝可能性あり〟との見方を示した。

 井上は現時点で、米リング誌のパウンド・フォー・パウンド(体重差がないと仮定した場合の最強ランキング)で堂々の3位。12キロの体重差を乗り越えて7階級制覇となれば、1位の〝偉業〟も夢ではない。