果たして実現度は――。昨今のスポーツ界は「AI審判」導入の流れが加速しているが、冬季競技の花形、フィギュアスケートも例外ではない。五輪2連覇の羽生結弦(27=ANA)は早大在学中に採点のAI化を研究。すでに国際スケート連盟(ISU)も検討段階に入っているが、現状はどうなのか? 日本スケート連盟の伊東秀仁フィギュア委員長(60)を直撃し、最新事情を聞いた。

 フィギュアスケートのAI採点の導入はかねて議論されてきた。特にジャンプが高難度化した昨今は審判の「肉眼の限界」が指摘され始め、羽生は2020年夏に「フィギュアスケートにおけるモーションキャプチャ技術の活用と将来展望」と題した卒業論文を執筆。手首、ヒジなどの関節にセンサーをつけ、ジャンプを数値化した本格的な研究で担当教授を驚かせた。

 同年末にはISUも財務報告書の中で「可能な限り公正で公平な判断を下すために、AIの可能性を評価している」と公表しているが、あれから進展しているのか? 伊東氏は「すでに日本国内の大会で何度かAI採点を試しています。今も体操競技のシステムを手掛けたチームがISUと一緒に進めています」と明かした。

 体操界はいち早くAI採点の導入を実施。富士通が開発した採点支援システムは複数台の装置から1秒間に200万点のレーザー光が照射され、技の角度などを正確にとらえる。フィギュア界も導入に向けて前進しているようだが、体操と違って一筋縄にはいかないようだ。

「体操は平均台やあん馬など定位置だけど、フィギュアは競技範囲が広くてジャンプをどこで跳ぶかわからない。体操でも床運動はいまだに採点できないようなので、スケートはもっと大変な作業。結構、難しいと思いますよ」(伊東氏)。国際試合で正式に導入するには課題が山積。まだ先は長そうだ。

 ただ、同システムはあくまで機械による「支援」にすぎない。羽生が研究したAI化も技の角度など技術的な部分に限定され、最終的な「美しさ」は人間の目で判断される。

 伊東氏は「テクニカルなものはAIを活用していいと思う。ジャンプの回転なども複数のカメラで角度がわかれば問題も解決する」と条件付きで賛成。その上で「コンポーネンツ(演技構成点)は不可能。人は感動するけど、AIは感動しないから。100%のAI化はできないと思う」と念を押した。

 羽生の〝努力の結晶〟はフィギュア界の未来へつながるか。今度の経過に注目だ。