【石原結實 食の金言】「豆腐と芸者は硬くては売れぬ」「豆腐と浮世は軟らかでなければいかず」という格言もあるように、豆腐は軟らかいのが特長である。

 よって、「二丁の豆腐をつなぎ止めようと鎹(土台のつなぎ目や二つの材木をつなぎ止めるために打ち込む“コ”の字型の釘)を使っても、その軟らかさ故に豆腐はくだけて、つなぎ止められない」様子を「豆腐に鎹」と言い、「糠(ぬか)に釘」「暖簾(のれん)に腕押し」「馬の耳に念仏」「豚に真珠」などと同義で「何の手ごたえもない」ことを言う。

「豆腐は軟らかくて頼りない」が栄養学的には非常に優れたタンパク質と高脂血症を防ぐリノール酸やリノレン酸などの不飽和脂肪酸、脳の働きをよくする大豆レシチン、Ca(カルシウム)、K(カリウム)、Zn(亜鉛)、Fe(鉄)などのミネラル、B1・B2・Eなどのビタミンをバランスよく含む超健康食品である。

 しかも消化の吸収率はほぼ100%で、胃腸病の人、赤ちゃんや高齢者には格好の栄養補給食品となる。昔の高僧に、精進料理だけ食べて長寿を保つ人が多かったのも、この豆腐が大いに貢献していたと思われる。

 本草綱目には「(豆腐は)中を寛(ひろ)くし、気を益し、脾胃を和し、血を清め、熱を散ずる」とある。つまり「胃腸の働きをよくして気力を高め、血液を浄化し、発熱を抑える作用がある」という意味である。

 豆腐をみそ汁に入れたり、冷や奴や湯豆腐、麻婆豆腐などで毎日食べて健康を増進し、「世の中は豆で四角でやわらかで、また老若に憎まれもせず」という豆腐のような柔軟な生き方をしたいものだ。

 ◆石原結實(いしはら・ゆうみ)1948年、長崎市生まれ。医学博士。イシハラクリニック院長として漢方薬と自然療法によるユニークな治療法を実践するかたわら、静岡・伊豆でニンジンジュース断食施設の運営を行う。著書は300冊超でベストセラー多数。最新作は「コロナは恐くない 恐いのはあなたの『血の汚れ』だ」(青萠堂)。