今月31日のハロウィーンは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、例年のように人が大勢集まるイベントが少なくなるのは確実。そんな悪霊払いのお祭り直前に、米国の巨大ネット掲示板「レディット」には「インドネシア黒魔術の小人?」と題した不気味な動画が投稿され、話題だ。映っているのは、ガリガリに痩せたナゾの生物が、少年3人組にイタズラする一部始終。果たしてその正体は?

 問題の動画の撮影場所は、インドネシアの大都市・ボゴール外れのシアプス村。最初に投稿されたのは2009年12月で、地元民を震撼させ、メディアやネットでたびたび取り上げられた。世界中から注目を浴びている恐怖動画だ。

 不気味な生物に遭遇したのは男子中学生(当時)の3人組。夜、家の玄関先でギターを弾きながら歌う2人を、もう1人がカメラで撮影している最中のことだった。

 画面右端から、手足が長くガリガリに痩せた人間のような生物が四つんばいで現れ、弾き語りする2人の背後から何かを取り、画面左側にさっと消える。撮影者は「そこにトゥユルがいる! ウソじゃない!」と慌てて、2人は一瞬演奏をやめるが、また何事もなかったかのように歌いだす。カメラを左に向けると、その生物はまた近くに現れて逃げていった。

 ここで出てくる「トゥユル」とはインドネシアで有名な小人。持ち主に気付かれないよう金目の物を少額ずつ、何回にも分けて盗むという言い伝えがある。盗みを働くのは人間の飼い主に上納するためといわれ、なんと呪術師にお願いすればトゥユルは飼えるとも。飼い主はリッチにはなれるが、その代償で身内に不幸が起こるとされる。

 そのためインドネシアでは、何か物がなくなると「トゥユルが出たんだよ」と考えるのだという。

 問題の動画は、暗がりで撮っているためモノクロ。画質は悪く、生物も少年たちもほとんど真っ黒。中学生が映像を加工し、捏造する技術を持っているとも思えないが、ネットでは当初から「なんで少年たちは驚いて逃げなかったのか」などと懐疑的なコメントがついていた。

 最近の投稿でも、ガリガリの風体から、多くの米国人が「麻薬中毒のジャンキーだろ」などと指摘。ただ、手足の長さが人間離れしているのは確かだ。

 インドネシア人の40代会社員は「これはフェイクビデオ。僕はトゥユルを見たことはないが、インドネシアでトゥユルはかなり一般的。子供ぐらいの背丈で、ハゲ頭ですから、これは違う」。

 インドネシアのユーチューブにはこの動画を含めた“トゥユル映像14連発”なるものもある。家の中を走ったり、列車にひかれそうになったり、屋根の上でたそがれたり、走るバイクのライトに照らされたり…。

 だが、イスラム教国だけあって、コメント欄には映像の信ぴょう性より「我々はトゥユルではなくアラー(神)を恐れなければならない」との指摘が目立つ。

 前出会社員は「ほとんどはフェイク。カメラに映ったトゥユルはめったに見られません。本物の可能性は10%以下といわれます」という。

 裏を返せば、10%以下の確率で本物のトゥユル映像があるということ? 

 ともあれ、インドネシア人は信じている。過去には、現金の盗難が続いていた東ジャカルタの村でトゥユルが捕獲され瓶に閉じ込められたり(11年)、スマトラ島北端の村でトゥユルに脅され寝つけない男性がいる(13年)などと報じられた。

 昨年7月には、体を白く塗り、トゥユルに扮した少年が真夜中、ユーチューブ用動画を撮っているのを警官に見つかり怒られたというニュースも。ハロウィーンでなくても、インドネシアの子供のイタズラに、トゥユルはもってこいのようだ。