令和の時代も「浪速のジョー」は不変だ。元WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎(51)が単独インタビューに応じ、現在も世界王座を狙う不退転の決意を激白。さらに同じく現役を貫くサッカー元日本代表FWの三浦知良(54=JFL鈴鹿)への思いから、WBAスーパー&IBF同級統一王者の井上尚弥(28=大橋)が熱望するWBOスーパーフライ級王者・井岡一翔(32=志成)との“ドリームマッチ”まで、1990年代を熱狂させたジョーは今、何を思うのか――。

――辰吉さんの現在が知りたくて来ました

 辰吉 なんで? 僕なんて過去の人でしょ。もう4歳の孫もおるし、おじいちゃんですわ(笑い)。

 ――どんな生活を

 辰吉 20代と何も変わらないね。朝起きて3~4キロのロードワークやって、洗濯して犬の世話をする。午後はチャリで(大阪)帝拳ジムに行ってシャドー、ミット、サーキット。内容は他のボクサーと一緒だけど、試合がないまま年齢を重ねてこの年かって感じ。
 ――まだ現役か

 辰吉 現役ですよ。自分はそこにプライドがある。世界チャンピオンになりたい。至って本気です。冗談だったら10年間もやらないし、真冬の朝に走れない。輪島功一さんと僕は3回チャンピオンになって2度返り咲いている。次に返り咲いたら3度目。昔から三度目の正直って言うでしょ。令和の時代に、昭和の人間が昭和の記録を抜くって面白くない?

 ――周囲に「もう無理」と言われないか

 辰吉 そんなもん、20代から30年間ずっと言われとる。人が笑おうがどうでもいい。たぶん僕が一般人で、こんな人間がおったら鼻で笑っていると思うよ。でも無理かどうかは人が決めるんじゃなく、自分が決める。曲げるつもりはないし、中途半端にやめることが僕は耐えられへん。

 ――同世代で現役を貫くカズさんと似ている

 辰吉 カズさんはサッカーが好き、僕はボクシングが好き。それだけのことなんですよ。お互いに自分がやりたくて続けている。そういえば10年以上前、ラスベガスのボクシング会場でカズさんに会ったんですよ。先輩のカズさんのほうから僕の席に足を運んでくれ、声をかけられた。うれしかったね。初対面の年下にわざわざあいさつに来るなんて、ホンマにすごい方やって思いました。

 ――今の収入は

 辰吉 ないですよ。蓄えだけです。ボクシングは職業やなく、趣味だから。仕事だとしたら何年間、無職かって(笑い)。時と場合によっては何度かテレビ番組に呼ばれて出たことはあったけど、周囲から「見たよ」とか「面白かったよ」って言われている自分に腹が立つ。ワシ、ボクサーやぞって。「次の試合いつ?」って言われるほうがいい。

 ――CMオファーも断っていたと聞く

 辰吉 先代の吉井(清)会長に「お前、何億っておカネを捨ててるぞ」って言われた。そのころ単価5000万円くらいのCMを即答で断っていたから。そりゃあ、おカネは欲しいですよ。欲しくない人なんて山奥の仙人くらい。でもね、いろんな人にこびを売ってまでカネに走る自分は許せない。カネなんてどうせ墓場に持っていけない。なんやったら墓代のほうが高い。生きていけるだけのカネがあれば十分。

 ――モンスター井上尚弥をどう思うか

 辰吉 あの子はすごいわ。とてつもない。東洋人でWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)で優勝ってまあ、ないこと。僕が口でどうこう説明するより、見たままですよ。

 ――今、井岡一翔に対戦を呼び掛けている

 辰吉 僕は2人とも知っているので言いづらいけど、骨格的にフェアじゃない。尚弥くんのほうが1階級上、もともと2階級上になるわけやから、下の階級から上げる一翔くんは不利。どっちの肩を持つわけじゃないけど、ちょっと対戦は無理があるかな。

 ――井上選手は「夢のカード」を望んでいる

 辰吉 やるならお互いに五分五分じゃないと。薬師寺(保栄)さんと僕のように同じ階級の対決ならいいけどね。確かに注目されて盛り上がるし、視聴率を取れるかもしれんけど、選手目線で言わせてもらうと、やめたほうがいいと思う。

 ――人生を山登りに例えると、今どこにいる

 辰吉 何合目かはわからないけど、休憩所にいる感じかな。立ち止まって、こっからどう登るかって。でも、頂上はハッキリと見えている。最後の青写真は、自分がやりたいことをして優雅に死ぬ。どうせ人間、死ぬんです。だから後悔なく生きたい。そもそも人は生まれて来た時点で奇跡やから。

☆たつよし・じょういちろう 1970年5月15日生まれ。岡山・倉敷市出身。中学卒業後に大阪帝拳ジムに入門。アマチュアで活躍し89年9月にプロデビュー。91年9月にWBC世界バンタム級王者になり、8戦目での世界王座奪取は当時国内最速記録。その後、左目の網膜裂孔と診断され長期ブランクがあったが、93年7月に同級暫定王座を獲得。94年12月に正規王者の薬師寺保栄と統一戦で激突。判定0―2で敗れたものの、ボクシング史上に残る名勝負となった。97年11月には3度目の同級王者に。翌年12月に王座陥落。2008年にJBCのライセンスが失効したが、同年10月、09年3月にタイで試合に出場。以後の実戦はない。次男・寿以輝もプロボクサー。167センチ。