圧巻のパフォーマンスが冤罪事件で翻弄された形となった。18日、前川彰司さん(60)に名古屋高裁金沢支部が無罪判決を言い渡した福井女子中学生殺人事件の再審公判。冤罪から雪冤に至る過程でカギとなった1つが、かつての人気音楽番組「夜のヒットスタジオ」(フジテレビ系)の視聴証言だった。
「アン・ルイスと吉川晃司がいやらしい仕草をしていたもの」「アン・ルイスが歌う後ろで吉川晃司が腰を振るいやらしい動作をしている場面」
再審への道を開いた昨年10月の名古屋高裁金沢支部の決定では、2人の大物アーティストの名前と「いやらしい」との言葉が多数、捜査段階における証人供述や公判での証言として引用されている。
1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害され、一貫して無実を訴えた前川さんが2審で逆転有罪となった事件。懲役7年の刑に服した後に再審請求が行われ、第2次再審請求で昨秋に再審開始が決まった。この過程で、「夜ヒット」で2人の歌と踊りを見たという証言が、前川さんと事件を結びつける役割を果たしていた。
決定文によると、86年3月19日の事件当夜に、服などに血がついた前川さんを見たと証言した者が6人。その1人である重要証人が「夜ヒットを見た後、頼まれて前川さんを迎えに行き、胸のあたりに血がついているのを見た」という趣旨の証言をしていた。番組を一緒に見た者がいるといい、その人物も共に視聴したと認める供述調書が作成された。
犯行を直接見た人はおらず、物証も乏しい中、一連の証言の信用性が争点に。「夜ヒット」視聴後に前川さんを迎えに行ったという証言は、前述の2人によるパフォーマンスの印象が強かったので覚えているという構図で支えられた。「いやらしいなあ」と感想を話した記憶があるとされた。
ところが、再審請求にあたって検察側が新たに開示した証拠により、当日の「夜ヒット」には2人の「いやらしい」場面はなかったことを示す捜査報告書の存在が明らかになった。そのシーンは翌週3月26日に放送されていた。しかも検察は1審途中でそれを把握していながら、隠してきたことも分かった。
これについて、弁護側は「確定判決の認定する一連のストーリーの中核部分が裏付けを失うことになる」と主張。再審決定では、証言者の虚偽供述に基づく取り調べの誘導、証言者側の迎合があったと認定された。
3月26日は「900回記念 特集スター総勢250名」として放送された。ルイスが「六本木心中」を歌い、後方でダンスをしていた吉川が体を密着させ、腰を振る。ルイスが吉川の股間近くに顔を寄せる…。そんなシーンの一部再放送だったという。
このパフォーマンスは85年10月2日の「夜ヒット」で披露された。テレビ朝日を退社した古舘伊知郎アナウンサーが司会デビューの日。古舘は後に自身のユーチューブチャンネルで、当時は極度に緊張していたと回顧。「あんまり記憶が定かじゃない。それなのにアン・ルイスさんと吉川晃司さんの今で言うコラボ、びっくりしますね。あれだけは目に焼き付いて離れない」と熱く語っている。
いわば神回。そんな名パフォーマンスが、冤罪に〝悪用〟され、最後は無罪証明につながるなど事件に翻弄されたと言える。












