苦しみながら天国の恩人へ白星を届けた。ボクシングトリプル世界戦が13日、両国国技館で行われ、WBA・WBC世界フライ級王座統一戦でWBC王者・寺地拳四朗(33=BMB)がWBA王者ユーリ阿久井政悟(29=倉敷守安)を12ラウンド1分31秒TKOで破り、ライトフライ級に続く2団体王座統一を達成。2本のベルトを持って2月28日に死去したプロレスラーで東京・文京区議の西村修さん(享年53)の墓前に報告することを明かした。

 土壇場で〝北斗百裂拳〟ごとき連打で勝負を決めた。過去にスパーリングで圧倒したことのある阿久井に苦戦。距離感に定評のある寺地だが、ジワジワ前に出る相手の圧力に距離を詰められ、激しく打ち合いを繰り広げた。

「ユーリ選手、めちゃくちゃ強くて心が折れそうになった」と振り返る苦戦。だが、最終12ラウンドに阿久井の唇を切り裂く強烈な右ストレートでダメージを与えると、怒とうの連打を叩き込んでストップを呼んだ。

 再び2本のベルトを手にして「めちゃめちゃ重みがあります」とリング上で感無量。観衆に向かって「次はより強い相手、スーパーフライ級のバムとやりたいと思っています」と、WBC王者でパウンド・フォー・パウンド(全階級を通じたランキング)で上位にランクされる強豪ジェシー・ロドリゲス(米国)との対戦を希望した。

 負けられない理由があった。2020年7月に泥酔してマンションに侵入し、他人の自動車を破損する不祥事を起こし、資格停止や社会奉仕を義務付ける処分を受けた際、文京区の護国寺などの掃除を手配するなどサポートしたのが西村さん。寺地は「しんどい時に手伝ってくれはった」といい、8日には試合を5日後に控えた最終調整の時期ながらも葬儀に駆けつけた。

西村修さんの告別式に参列した寺地拳四朗
西村修さんの告別式に参列した寺地拳四朗

 寺地の父であるBMBジムの永会長は「近くにいた人が遠ざかっていく中でお世話になった人に恩義を感じていたのだと思う」と息子の心情を代弁する。葬儀に出席したことにも「僕からはあえて行けとは言わなかった。周りからも後でお参りしてくれたらいいと言われたが、一生の最期のことなので行ったのでしょう」と語った。

 8日の公開練習では「勝ってお参りしたい」と誓っていた寺地。それを実行できることに「無事にお参りできるので勝ててよかったです」と安どの表情を浮かべた。恩返しを果たした男の歩みは止まらない。