米アカデミー賞の授賞式が3日に米ロサンゼルスで開催され、長編ドキュメンタリー部門にノミネートしていたジャーナリスト・伊藤詩織氏の監督作品「Black Box Diaries」は受賞を逃した。性的被害に遭った当事者が自らメガホンを取った作品ということで世界的にも注目されているが、日本と海外とでは温度差がある。

 伊藤氏は自身が性的被害に遭った事件を題材に映画を製作。海外の映画祭で賞に輝くなど注目されていたが、米アカデミー賞ではイスラエル軍に占領されるパレスチナ人居住区を舞台にした「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」が長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した。

 世界的に話題となる「Black Box Diaries」だが、内容に問題点が浮上していた。伊藤氏の元弁護士らは現場となったホテルの防犯カメラの映像がホテルの許諾なしで使用されていることや、捜査官とタクシードライバー、弁護士らの映像や音声が無断使用されていることなどを問題視していた。伊藤氏は先日、これらの問題点について一部を修正すると言及していた。

 一方で伊藤氏を擁護し、元弁護士らを批判する意見が日本国内だけでなく海外のジャーナリストからもあがっている。先月、日本外国特派員協会で会見した元弁護士らは「ジャーナリストとして当然に守るべき取材源の秘匿、および公益通報してくれた人の保護、これらがまったく守られていない」と要点を訴えていた。

 ところが海外メディアからは「依頼人の秘密を弁護士が公にしていないか」「米アカデミー賞があるから会見するのか」「上映して広く議論すればいい」「伊藤氏はジャーナリストとしてミスしたが被害者としては大きなことをしている」などと、どちらかというと元弁護士らに対して厳しい質問が相次いだ。

 元弁護士の1人である佃克彦氏は会見でこれらの質問に、「依頼関係中の秘密は何ら侵していない」「アカデミー賞を取るかどうかに関心を有してない」「上映してみんなで議論というのは問題があると考える映画を見せるだけ」「ホテルの映像を(許可なく)使うと将来の被害者の救済の道をふさぐ。今の伊藤さんの活動は弊害ももたらす」とそれぞれ返答していた。

 作品をめぐって海外と国内での温度差がかなりあるようだ。日本の法曹関係者は「確かに表現の自由には公共性があれば本人の承諾がなくても映像にできるという理屈はある。しかし、それは個別の事案ごとに検討されるべきで、今回のケースがそれでいいのかという議論はジャーナリズムの観点だけでは荒い」と、法的な観点の必要性を指摘した。

 別の法曹関係者は「ホテルの防犯カメラについては明確に(裁判以外では使用しないという)サインをしている。また、承諾を得ていない映像や音声にはタクシー運転手や捜査官のものがあるが、それらの使用に際して許諾がいるのは海外メディアも同じ原則のはず。そこを無視して『映画が素晴らしい』というのは乱暴だ」と、ジャーナリズムのルールは海外も同じはずだと首をかしげる。

 とはいえ日本でもいずれ公開される可能性が高い。その時はまた大きな話題となるはずだ。