例年より気温は高いものの、ようやく「燗酒がおいしい」と思える季節がやってきた。となると飲みたくなるのがふぐヒレ酒。焼いたヒレの香ばしさが酒欲をそそり、いくらでも飲めてしまう。

 そのヒミツはヒレに多く含まれるグルタミン酸とイノシン酸。いずれも旨味成分で、双方が混ざると旨味の相乗効果によって、旨味が増す。さらに白ワインの10倍ものアミノ酸を含む日本酒に入れることで、旨味はエンドレスに。そりゃおかわりを止めるのは、不可抗力と言ってもいいだろう。

 もともとふぐヒレ酒は物資の乏しい戦争前後、三増酒と呼ばれた粗悪な酒の味を少しでもごまかそうとして生まれたものだという。三増酒の正式名は三倍増醸清酒。水で希釈した醸造アルコール、糖類、グルタミン酸ソーダなどを加えたもので、飲まずともうまくないことが分かる。それでも何とかしてうまくしようとする酒飲みの努力の賜物こそ、ふぐヒレ酒なのだ。

 酒の味をごまかすといえば、つい最近まで「まずい酒は燗酒にしてごまかす」と思い込んでいる人が多かった。しかし、これは大きな間違い。第一に日本酒黄金期と言われる今、まずい酒を探すほうが難しい。温めることで香りが揮発し、隠れていた旨味が花開く燗酒こそ、ごまかしがきかないと私は思う。

 ではどんな酒が燗酒に向くかというと、米の旨味をしっかり感じられる純米酒がイチオシだ。銘柄で言えば「山猿」(山口県・永山酒造)、「十旭日」(島根・旭日酒造)、「神亀」(埼玉・神亀酒造)などがそれにあたる。いずれも単独で十分にうまいが、もしふぐヒレが手に入ったら、ぜひ自宅でふぐヒレ酒を試して欲しい。アテには今が旬の香箱ガニ(ズワイガニのメス)はいかがだろう? 昨今はスーパーでもお目見えするようになったし、値段も1000円以内なので懐にも優しい。ふぐ(ヒレだけど)とカニなんて想像しただけで喉が鳴る。今宵は休肝日を返上だ。