【前田日明(34)】表舞台から姿を消してきた俺を口説きに来たのは、ユニバーサルプロレス(UWF)時代の営業本部長で新日本プロレスも辞めてイベント会社「ビッグマウス」を立ち上げた上井(文彦)だった。3年も何もやってなかったし、貯金を切り崩して船まで買ってたからカネもなくなってきていて、復帰しなきゃいけないなと思ってたんだよ。

 初期のビッグマウスは総合格闘技団体「HERO’S」の主催もしてて「スーパーバイザーになってくれないか」と。それに「PRIDEをつぶす」というので話に乗った。2005年1月にプロレス部門「ビッグマウス・ラウド」のスーパーバイザーにも就任した。この名付け親も俺なんだよ。「総合格闘技でも通用するプロレスラーをつくる」と発言したのは、俺らの時代は、それが当たり前だったからね。

 ビッグマウス・ラウドのコーチ役を務めた船木(誠勝)とも再会し、第2次UWF解散騒動の裏で何があったのか全部聞いた。クエスチョンマークだらけだったのが、全部つながったね。船木は絶対に話を大きくしたりウソをついたりしないんだよ。ギャグが通じないというか冗談を言ったら真剣に受け止めて悩むし、実直な男なんだよ。

ビッグマウス・ラウドの(左から)村上和成、横峯良郎、前田日明、柴田勝頼
ビッグマウス・ラウドの(左から)村上和成、横峯良郎、前田日明、柴田勝頼

 最初はストロングスタイルのプロレスをつくるんだって動いてたんだけど、ちょっとして、おかしな話が出てきた。社員にも選手にも給料が払われてなかったんだ。俺は3年ぶりに復帰したから取材だ、出演だのがガンガンあって、ギャラが入ったから「みんなで焼き肉でも行こうぜ」ってなったけど、どこかシンとしてるんだよ。「どうしたの?」って言ったら柴田(勝頼)は家賃が2か月払えてないって言い出して。村上(和成)も「俺も、来月あたり家主からなんか言われるかもしれないですね」とか言い出してさ。仕方ないからその場で俺のギャラをみんなで分けたんだよ。

 プロモーターの感覚からすると、当時の団体の注目度でカネがないわけない。スポンサーもついてたし、興行の売り上げも1年間で約2億円あった。これは上井が抜いてるなと思ったんだよね。

 だから06年2月の徳島大会で、上井の横領を告発し、俺と船木は脱退した。あれは計画的な横領。上井が社長の有限会社ビッグマウスがカネの受け入れ先で、株式会社ビッグマウス・ラウドという別会社をつくって村上を社長にした。そして村上の会社の方を税金の支払い元にしたんだよ。ひどい話でしょ。結局国税の査察で、村上は4000万円を支払うことになった。最初から計画的で、最悪の詐欺師ですよ。

 俺も上井には約1100万の借金をトンズラされてる。本当、俺の人生で合計いくらだまされてるのか、誰かに計算してほしいくらいだよ。

 ☆まえだ・あきら 1959年1月24日生まれ。大阪市出身。78年8月に新日本プロレスでデビュー。84年に第1次UWFに参加後、88年に第2次UWFを旗揚げ。91年にはリングスを立ち上げた。99年2月に「霊長類最強の男」と呼ばれたレスリング五輪3連覇のアレクサンダー・カレリン(ロシア)との一戦で現役を引退。その後も海外との人脈を生かして数々の強豪を招聘した。2008年3月からアマチュア格闘技「THE OUTSIDER」を主宰。192センチ、現役当時は115キロ。

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