落語家・桂春蝶(47)が、自身の作った創作落語「桂春蝶の落語で伝えたい想い」第9作「ハマナスの誓い~昭和20年8月18日 ソ連軍から北海道を守った 千島列島占守島における真実の物語~」のネタおろし公演を現在、開催中だ。くしくもこのテーマの77年後である今年、ロシアによるウクライナ侵攻という戦争が勃発した。戦争を落語で伝えたかった思いとは?

 同作は、終戦直後の1945年8月18~21日に起きた千島列島最北端の占守島(しゅむしゅとう)の戦いをベースに、アイヌに育てられた日本兵の話を春蝶がアレンジ。1時間半の大ネタに仕上げた。

 占守島の戦いは、ポツダム宣言受諾で武装解除準備中の日本軍が守備する同島をソ連軍が奇襲攻撃。日本軍が優勢だったが、21日に軍命により降伏した。その後、捕虜となった日本兵の多くがシベリアに抑留され、強制労働を強いられた。守備隊の奮戦がなければ、北海道はソ連に占領されていたともいわれている。

 戦争をテーマにした噺(はなし)とあって、内容は「重いで」と春蝶は言う。終了後は客席から鼻をすするような音も聞かれた。

 2013年から始めた「桂春蝶の落語で伝えたい想い」は今回で9作目。「戦争潭」は「明日ある君へ~知覧特攻物語~」「ニライカナイで逢いましょう~ひめゆり学徒隊秘抄録~」に続く3作目だ。

「上方は人情噺が少なくて、江戸落語は笑いがない話も結構ある。笑いも追っていきたいんですけど、深いところも表せるのが落語のいいところ。僕も今、東京に住んでいて、いろんな影響を受ける中で自分なりの人間の深さを話せるような噺が作れないかなと思って、戦争や病、苦しみや悲しみも物語になるきっかけになるんじゃないか」

 重い内容だけに落語っぽくない気もするが、「『M―1グランプリ』で何が漫才なのかって論争もあったでしょ? 僕がやってるシリーズにも『何が落語なのか』っていうのもあるんです。だけど、その価値観に対して、演者が新しいものに挑戦していくことで伝統になると思う。本当にやりたいものを求めていくのが落語の延命につながるのかなと思ってます」と持論を語った。

 占守島の戦い、シベリア抑留をテーマにした落語の構想は一昨年くらいからあったという。くしくもロシアによるウクライナ侵攻が始まって現在にも通じる話となり、「日本ではセンシティブな話でもありますけど、ソ連、ロシアのことをこういう題材で切り取っても、今なら聞いてもらえるのかな」と、このタイミングでの発表に踏み切った。

 戦争については「戦争って、『正義』と『平和』って両頬に書いてる顔だと思ってる。だから、『正義のため』とか『平和のため』って言いすぎてる人は危ない。ソ連やロシアもそうだし、ヒトラーにしても演説で『平和』って言ってる数が多い時ほど危ないことをやってた」と指導者の言動から垣間見える危険性を指摘。

「戦争って何にしても悲惨なんです」

 この公演は4、5日に大阪・吹田市文化会館メイシアター小ホール、7日に神戸新開地・喜楽館、16日の東京・日比谷コンベンションホールまで続く。

 春蝶は「このシリーズでは“よくある思想”みたいな既成の思想に寄りかかるものではなくて、一つの事象に対して一人ひとりが自分で考えていく。命とか死生観とか人間愛とかを深く描いていけたら。笑いや涙にカテゴリーされるのじゃなく、人間の気持ちを揺さぶるのはみんなエンターテインメント。絶望的なものを聴くんですけど、最後には希望があふれるような話になれば」と意気込んだ。

 ☆かつら・しゅんちょう 1975年1月14日生まれ。大阪府吹田市出身。本名・濱田大助。実父の2代目桂春蝶が93年に亡くなったことをきっかけに落語家を志し、94年に父の師匠でもある3代目桂春団治に入門。桂春菜を名乗る。2009年、3代目桂春蝶を襲名。11年に松竹芸能を退所し、活動の拠点を大阪から東京に移す。上方と江戸の落語を融合しながら古典から新作まで幅広くこなす。同期の桂吉弥、桂かい枝との「くしかつの会」が人気で評価も高い。大の虎党。