女装した男たちの集団が走る、走る、走る。道行くおばあさんは「頑張ってー」と声をかけ、小学生の男の子は「わー、化け物が来たぞー」と騒ぎ立てる。

 今年も2月末、東京・江戸川区東葛西で奇祭「雷(いかずち)の大般若」が行われた。町中を疾走したのは女装をした10代後半~60代後半の男衆50人余り。しかも顔におしろいと真っ赤な口紅を塗り、青のアイラインをして、色鮮やかな頬紅をしている。

 東葛西にある雷不動・真蔵院の境内は、早朝から300人余りの見物客でごった返した。午前9時に太鼓が打ち鳴らされると、集団の先頭に立つ三役と男衆が猛ダッシュで町内に飛び出す。

「わっしょい」という掛け声をかけながら疾走し、家人の前に着くと三役が「おめでとうー」「おめでとうー」と言いながら「お札」や厄よけの黄色い布を手渡す。受け取った家人はお布施を手渡す。そのとき、三役の1人が「もらったよー」と言うと、全員が手拍子で呼応する。

 男衆は集団を維持したまま、ひたすら家々を回る。三役は「祈祷札」や「ご祝儀箱」、7尺(約212センチ)あまりの不動明王の「大宝剣」を担ぎ、その後ろの男衆は重さ20キロ以上ある6つの「経箱(大般若経などを100巻納めた箱)」を担ぐ。1軒終わると、次の家まで全力疾走。全員汗だくだ。

 雷の大般若は江戸時代末期、コレラが蔓延したときに、真蔵院の和尚が「大般若経」を背負って家々を回ったところ、被害がなくなったことに由来している。女装については昔、結核にかかった妹のために、兄が長じゅばんを着て、化粧をして参加して平癒を祈ったという説が有力視されている。かつてコレラや結核は不治の病とされていた。

 この日、男衆が回ったのは500軒余り。真蔵院に戻ったのは午後4時を過ぎていた。

 地元の70代後半の女性は「これで1年安心して暮らせます。もうずっとここで生活をしていますが、嫁いでからも(お不動さん)信仰を続けています。来てもらうと、雷が落ちることはないですよ。本当にありがたいことです」と話している。