【マンデー激論】中央アジアのカザフスタンは、石油、天然ガス、ウラン、銅、鉛、亜鉛などを豊富に産出する資源大国だ。同国ではナザルバエフ前大統領が現在も隠然たる影響力を持ち、中央アジアの中で政情が安定している国と見られていた。
この国で異変が起きた。価格自由化政策の影響で液化石油ガス(LPG)の上限価格が撤廃されて販売価格が2倍に急騰したことに対して一部の国民が反発し、2日から西部地域で市民の抗議活動が始まった。カザフスタンの警察力と国家安保委員会(秘密警察)の力を用いれば、この程度の混乱を鎮圧するのは容易なはずだ。
しかし、混乱は暴力的性格を帯びるようになり、4日にはアルマトイ中心部で警官隊との大規模衝突に発展し、5日、トカエフ大統領は、内閣を事実上更迭し、全国土に非常事態宣言を導入した。
それでも事態は沈静化しなかった。6日、ロシア、カザフスタンなど旧ソ連6か国で作るCSTOの議長国アルメニアのパシニャン首相は、トカエフ大統領の要請にもとづき、カザフスタンに集団的平和維持軍を派遣すると発表した。6日にロシアの空挺師団がカザフスタンに展開し、トカエフ大統領と協力して事態の沈静化に当たっている。
ロシアの空挺師団が鎮圧にあたり事態は沈静化しつつある。日本の新聞を読んでいてもこの事件の背景事情がよく分からない。モスクワから筆者のもとに興味深い情報が届いた。それによると、「危機の最大の要因はエリート集団の権力闘争である。一方は、権力構造と経済を現在支配する前大統領ナザルバエフの集団、他方は、トカエフ大統領の周辺の集団で、ナザルバエフらの利権を奪おうとしている」ということだ。
政府も秘密警察も両派で分裂し、機能していない状態にある。この状況でトカエフ大統領はロシアのプーチン大統領の力を借りることによって、今回の危機を乗り切ろうとする。今回の抗争でトカエフ大統領側が勝利すれば、カザフスタンはロシアとともに米国との関係を重視するという独自外交を変更することになる。カザフスタンは外交的にロシアの影響下に置かれることになる。
筆者はこれを「カザフスタンのベラルーシ化」と見ている。プーチン大統領は旧ソ連諸国をロシアの影響下に置こうとしているが、その方向に向け、駒を一つ進めたことになる。米国のバイデン政権はまだこの動きに気付いていないようだ。
☆さとう・まさる 1960年、東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省に入省。ソ連崩壊を挟む88年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍した。2005年に著した「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」で鮮烈なデビュー。20年、菊池寛賞を受賞した。最新著書に池上彰氏との共著「激動 日本左翼史 学生運動と過激派1960―1972」(講談社現代新書)がある。












