17日(日本時間18日)にフリーが行われたフィギュアスケートの「全米選手権」男子は、2018、19年に世界選手権を連覇したネーサン・チェン(21)が優勝し、71年ぶりの5連覇を達成して幕を閉じた。

 まずはショートプログラム(SP)で圧巻の演技を披露。フリーは冒頭の4回転ルッツこそ着氷でステップアウトして手を突くミスがあったが、その後は4回転フリップ―3回転トーループのコンビネーションを無難に成功させると、3回転ルッツ、4回転サルコー、4回転トーループからの3回転フリップ、4回転―3回転トーループのコンビネーション、最後はトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も鮮やかに決めた。ステップ、スピンも全てレベル4を獲得。合計322・28点で、2位のビンセント・ジョウ(20)に30点以上の大差をつける圧勝だった。

 こうなると、3月末に開催予定の「世界選手権」(スウェーデン・ストックホルム)で羽生結弦(26=ANA)との決戦の行方に注目が集まる。五輪2連覇中の王者・羽生は一足先に昨年12月の「全日本選手権」で優勝。その時の得点が合計で319・36点で、今回のチェンのスコアに2・92点及ばない。この差をどう見るか。

 周知のとおり全日本選手権も全米選手権もローカル大会のため、得点は国際スケート連盟公認にはならない。そして、ローカル大会の得点はやや甘めに出る傾向があるため、今回の両者のスコアがどこまで世界選手権に反映されるかは微妙だ。

 まずは羽生。全日本のSPは103・53点にとどまり、技術点は56・21点と低かった。この原因はスピンの一つがまさかの0点。これはシットポジション(足を替えて座るスピン)の不成立という理由だった。これは羽生自身も修正可能という見解を示しているため、同じミスを繰り返すとは考えにくい。

 フリーは全てのジャンプを成功させ、大幅な加点を獲得。215・83点をたたき出したが、これでもまだステップはレベル3止まりだった。これが今季初戦、しかもコーチ不在だったことを考えれば、かなりの伸びしろが期待できる内容だった。

 一方、今回のチェンはSPが抜群の出来だった。ジャンプのノーミスに加え、ステップは全てレベル4。フリーの冒頭のジャンプさえミスしていなければ330点台に届いていた。

 ただ、SP、フリーともにスピンがやや甘めの採点。特にSPについてはレベル3と思われたものが、最終的にはレベル4に引き上げられていた。さらにフリー前半のジャンプもあまり高さが出ていなかった。世界基準の採点では厳しく見られる恐れがある。

 羽生にない多彩なジャンプで得点を重ねるチェンに対し、フィギュアスケートの本質でもある「演技」の部分でチェンを凌駕(りょうが)する羽生。新型コロナウイルスの猛威が収まらない中、まずは世界選手権が無事に開催されることを願うばかりだが――両者のハイレベルな戦いはステップやスピンといった細かな部分が勝敗を分けそうだ。