これは驚きだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催が1年延期となった東京五輪について大会組織委員会は引き続き「TOKYO2020」の名称を使用すると発表したが「TOKYO2021」の商標を出願している個人・団体が存在することが判明。本紙が調査したところ、なんと“本家”の組織委も「――2021」を出願していた。しかも、五輪延期が正式決定した翌日という用意周到ぶり。その真意とは?

 機を見るに敏と言うべきか。五輪延期の判断はやや後手に回ったが、大会名の悪用への防止策は驚くほど迅速だった。

 五輪初の「延期」が発表された会見で組織委の森喜朗会長(82)は「名称まで変えることは考えない」と、来年7月開幕の大会名称も「TOKYO2020」を継続すると宣言。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(66)も「この大会は『TOKYO2020』なんだ」と主張した。聞こえはいいが、要はすでに登録済みの商標「TOKYO2020」を無駄にしないため。商標を変えていたら、ただでさえ膨大な追加費用を圧迫するのは明らかだ。

 一方、それを逆手に取って「TOKYO2021」の商標登録を狙った者もいる。17日現在、特許庁に同商標を出願しているのは3件。一番乗りは3月13日に出願された個人名義で、延期を早々と想定していたのだろうか。そして、残り2件のうち1つが何を隠そう「――2020」の権利者でもある組織委だった。

 しかも、出願日は同25日。前日の午後8時に安倍晋三首相(65)とバッハ会長が会談して延期が電撃的に決まったことを考えると、実にスピーディーだ。本紙が調査すると、衣類や飲食品、おもちゃ類まで計45区分で出願され、同日中にトータル39万400円の出願手数料を支払っていた。

 来年も名称を継続するのに、ここまで用意周到に「――2021」を出願した狙いとは? 組織委を直撃すると、こんな答えが返ってきた。「本大会は2021年に開催予定であり『TOKYO2021』という呼称は本大会を想起させ得る。呼称が商業利用されますと、消費者に誤認混同を生じさせ消費者被害などが生じる恐れがあるほか、アンブッシュ・マーケティング(便乗商法)にも該当する可能性があります。そのため、消費者保護および本大会のブランド保護の観点から出願に至りました」

 つまり悪用防止策として先手を打ったというわけだ。明らかに他者の商標を狙った「先取り出願」は今に始まったことではない。過去にも同一者による悪質な出願を問題視した特許庁が注意喚起したこともある。今回は組織委の出願の前に1件の個人と、団体があるが、法曹関係者によると“本人”が出願したことで他者は却下される公算が大きいという。

 前代未聞の延期で問題山積の東京五輪だが、今回の判断は超ファインプレーと言えるだろう。