元WBC世界フェザー級王者で、35歳で日本人男子最年長となる世界王座初奪取を成し遂げた“不屈のファイター”が越本隆志さん(55)だ。現在は福岡ボクシングジム会長としてリングサイドに立ち、教え子たちを見守る立場にある。世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(32=大橋)がフェザー級転向も視野に入れる中、その強さの本質、そして指導者として次代に託す思いを語った。
ボクシングとの出会いは中学3年。元プロボクサーで福間スポーツジム(現・福岡ボクシングジム)を創設した父・越本英武氏の存在が大きい。「父がジムを立ち上げて、自然とそこにいた」。家では親子でも、ジムでは指導者と選手。「反発もあったし、やらされていると思った時期もあった」と振り返る。それでも離れなかった。1992年にプロデビューし、94年に全日本フェザー級新人王を獲得。96年に日本フェザー級王座、2001年にOPBF東洋太平洋フェザー級王座を手にするなど着実に歩を進めた。
転機は右肩の腱板断裂だった。医師からは続行が難しいと告げられたが、「やめるという発想はなかった。どうやったら勝てるか、それだけ」。左を軸に戦術を組み立て直し、06年1月29日、韓国の池仁珍を2―1判定で下してWBC世界フェザー級王座に就いた。「自分が一番驚いていた。ここまで来られたのは周囲のおかげ」。だが半年後の初防衛戦は、右肩に続き左肩も部分断裂の状態でリングに上がった。「決めた試合はどんな状態でも上がる。それが自分の考えだった」。ルディ・ロペスに7回TKO負け。「両方使えなくなったら、ここが潮時だと思った」と潔く引退を決めた。
現在は福岡ボクシングジム会長として若い選手を育てる立場にある。やりがいを問うと「選手が勝った時、それは最高。自分の時以上にうれしい」と即答する。「自分が勝った時に喜んでくれた人たちは、こういう気持ちだったんだと分かった」。育成で最も大事にしているのは才能よりも継続だ。「なりたい自分にどれだけ時間をかけられるか。何かを犠牲にしないとつかめない世界」。情報過多の時代にも警鐘を鳴らす。「いろんな情報がすぐ手に入る。でも全部が正しいわけじゃない。一度自分のフィルターを通して、取捨選択できる力が必要」。真面目で素直な若者が迷い、パンクしてしまう危うさも感じている。
話題が井上尚弥に及ぶと、言葉には確信が宿る。「全部持っている。身体能力、スピード、パワー、スタミナ、センス、自己管理能力。欠けているものがない」。フェザー級転向を視野に入れる動きについても「スーパーフェザーぐらいまでは取れるんじゃないかな。それぐらいのポテンシャルがある」と評価。「日本ボクシング史上最高。歴代の日本人世界王者の中で総合力はトップ」と断言した。そのすごみを説明する例えに挙げたのがドジャース・大谷翔平だ。「二刀流で漫画でも描けないような選手が現実にいる。そのボクシング版が井上くん」。進化を続ける競技の象徴と見ている。
最後にこれからの人生を問うと、「後悔しないようにやるだけ。その先にチャンピオンを育てられたら一番」と静かに語った。「最後まであらがい続けたい」。不屈のファイターは今、自分のためではなく、次の世代の夢のために戦い続けている。













