鉄棒で前回りの連続記録51回――。65歳でこの記録を打ち立てた“ぐるぐるおじさん”こと下田道雄さん(74)は、今も現役で鉄棒に向かい技を磨く。定年後、健康のための散歩中に鉄棒と出会い、今では子供たちに指導し「教えた子は140人、弟子は6人」。旺盛な食生活と日々の鍛錬で情熱は衰えず、今年2月には左右の中指1本だけで逆上がりする超人的な新技もマスター。現在はバク転やバク宙にも挑み、北九州市民カレッジでは講師も務め「年を取っても成長できる」と元気と笑顔を届けている。

「最初は逆上がりもできなかったんですよ。恥ずかしくて、せめて1回は回れるようにならなきゃと」。60歳を過ぎて鉄棒を握った下田さんは、当初1回転すらままならなかった。だが、探究心と反骨心で本やテレビを参考に練習を続け、半年後には連続回転が可能となると、3年目で17回、4年目に27回と毎年10回ずつ増やし、65歳の6年目には最高51回の前回り連続記録を達成した。

 そこに至るまでに、年間1万7000回以上も回転を重ね、持ち方やタイミングなどを工夫してきた。記録更新の裏には、指の位置や呼吸のリズムの調整、弟子たちの声援など、目に見えない努力がある。「51回の時は、子供たちが数えてくれていて。声が聞こえてきて“これは超えるしかない”と思った」。今年、23歳の6番目の弟子が記録を1回更新したと聞いても「うれしい。教えが生きている証拠」と笑顔で語る。

 鉄棒との出会いは、定年退職後の何げない日課から。「健康のために」と続けていた散歩の途中、公園の鉄棒が目にとまり、何十年ぶりかに逆上がりを試みるも失敗。「これは情けない」と奮起した。以来、週3回の練習を欠かさず、技を磨いてきた。「散歩から鉄棒、鉄棒から出会いへとつながって、今の自分がある」と振り返る。

講師を務めた下田道雄さん
講師を務めた下田道雄さん

 日々の鍛錬もストイックだ。朝は柔軟体操、3分の逆立ち、腕立て伏せ100回。1日1万5000歩のウオーキングを基本に、フルグラやバナナ、はちみつトーストにヨーグルト、麦を加えた食事で体調を整え、週3回は魚、2回は肉を取る。体重は52キロを維持し、ウエストは60代の頃より10センチ以上絞れた。「退職後14年間、風邪をひいていないのが自慢です」と胸を張る。

 スケート歴は50年以上で、プロ用の靴も履きこなす本格派。羽生結弦選手の技に触発され、氷上で靴にあごをつけて滑る難技も体得した。「スケート靴だけで40万円ぐらいかかったけど、鉄棒はタダ。散歩からここまで来られたのはありがたい」と笑う。

 弟子は現在6人。中学生が多く、部活と両立しながら指導を受ける。「ぶら下がった時点で、どこが弱いか分かるようになった。140人教えて、逆上がり成功は136人。これは自分の財産です」と目を輝かせる。

 鉄棒への情熱は今も衰えない。両指一本ずつだけの逆上がりといった高難度技も習得し、現在はバク転やバク宙、足の指10本だけを引っ掛けてぶら下がる技にも挑戦中。「最初は怖くても、慣れればできる。続けるにはカレンダーに記録することが大事」と語り、成長の“見える化”を勧める。

「教えた子が『できたよ!』と笑ってくれるのが一番の原動力」。下田さんは「80歳まではやるつもり。できれば90歳、いや100歳まで回り続けたいですね」。“ぐるぐるおじさん”の挑戦は、これからも止まらない。

足首だけで鉄棒に逆さにぶら下がり余裕のVサインをする下田道雄さん
足首だけで鉄棒に逆さにぶら下がり余裕のVサインをする下田道雄さん