北海道を震撼させた〝忍者グマ〟が東京で人間に食べられていた――。2019年からの4年間で牛66頭を襲ったヒグマ「OSO(オソ)18」が、先月30日に釧路町でハンターにより駆除されていたことがDNA鑑定により判明。さらに驚くことに、その後一部はジビエ肉として流通し、すでに食通たちの胃袋に消えていたことが分かった。

 北海道釧路総合振興局は22日、釧路町で駆除されたクマが検体の体毛のDNA鑑定により「OSO18」と断定されたと発表した。ただ駆除後のクマは、すでに地元のジビエ業者によって解体され、全国各地の飲食店などに発送されていた。

東京・人形町のジビエ料理専門店「あまからくまから」
東京・人形町のジビエ料理専門店「あまからくまから」

「まさか目の前の肉があの〝OSO18〟だったとは…」。東京・人形町のジビエ料理専門店「あまからくまから」の店主・林育夫さん(58)が興奮気味に振り返る。

 林さんによると、店が営業中だった21日夜、取引先の北海道・白糠町のジビエ業者から「林さん! この前送ったクマ肉だけど、あれ〝OSO18〟だったことが分かったんだ」と連絡を受けたという。

 ちょうど来店した客に名物の「ひぐま肉炭火焼」を提供したばかりのタイミングだったといい、林さんが「いま召し上がっていただいているその肉、実は〝OSO〟でした」と恐る恐る打ち明けると、客は驚きつつも「うまい!」と喜んで舌鼓を打ったそうだ。

 ちなみに駆除されたクマは体長2メートル10センチ、前足の幅が20センチ、推定体重は330キロだった。駆除直後に「でかいクマが捕れたよ」と業者から連絡を受けた林さんは、いつも通り「炭火焼用」と「オハウ(鍋)用」の部位を発注。「ヒグマは脂身のある〝ロース〟が一番うまいんですが、300キロを超えるような大きな個体だと、ロースはスジが入って固くなりやすい。〝OSO〟だとは知りませんでしたが『でかいクマだ』ということだったので、今回は巨体でも柔らかい〝内モモ〟を一頭分と〝肩ロース〟合わせて7キロほど仕入れました」

「OSO18」のもも肉を焼いたジビエ料理
「OSO18」のもも肉を焼いたジビエ料理

 気になるのは牛ばかりを襲い続けた凶暴クマだけに、木の実など草食中心のクマとは肉質や味に違いがあるのかだが…。「例えば、サケばかり食べるクマは魚っぽい味やにおいがします。OSOは脂身が少ない印象は受けましたが、味の違いはそこまでないかな」(林さん)とのことだ。

 ただ、残る〝OSO肉〟についてはいったん提供を止めるつもりという。「OSOは有名だけど、最初に思ったのは『人を襲ったクマじゃなくて良かった』ということでした。北海道のアイヌのしきたりでは、人を襲ったクマは〝ウェンカムイ〟と言われ、食べてはいけないので。とはいえ、人騒がせなクマでしたから、分かってしまった以上は〝相応の儀式〟をしてもらおうかと考えています」(林さん)。親交あるアイヌ関係者が近く北海道から上京するため、アイヌ式で肉を〝お祓い〟をしてもらう予定でいる。

 4年にわたり人間たちを震え上がらせてきた凶暴グマ〝OSO18〟。最後は大都会の真ん中で「炭火焼」に姿を変え、おいしく提供されていた。