防衛省がAIを用いてSNSで国内世論を誘導する工作の研究に着手したことが明らかになり、大きな議論を呼んでいる。インフルエンサーに無意識のうちに防衛省に有利な情報を発信するように仕向けて支持を広げるというが、これには批判が殺到。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は研究の必要性を認めつつも、「国民が政権のストッパー機能を果たせなくなる」と危険性も指摘した。
防衛省が世論誘導の研究に着手したとの報道が9日に流れると、各方面から政府への大バッシングが巻き起こっている。
ツイッターでは北朝鮮に拉致された蓮池薫氏の実兄・透氏が「統一教会が『政界工作』、防衛省が『世論工作』。もうメチャクチャだよ、この国!」と批判すれば、立憲民主党の長妻昭政調会長と杉尾秀哉参院議員からは「本当か!?」「マジか?」などと驚きの声が漏れた。
政府関係者は「ロシアや中国が急速に進める情報戦に備えるため」としているが、インフルエンサーに無意識のうちに防衛省に有利な情報を刷り込ませるように発信する手法は、民間企業の“ステルスマーケティング”と似た性質を持ち、民間企業が行えば大バッシングにさらされる。また、第2次世界大戦では大本営発表という絶対の世論誘導が行われた結果、ドロ沼に突き進んでいった反省もあるだけに、今回の研究着手に批判が集まるのも無理はないだろう。
とはいえ、ロシアや中国がネットを介した他国への干渉をする限り、何らかの対応策が必要になるのも事実だ。それだけにITジャーナリストの井上トシユキ氏も「現在の国際情勢を鑑みれば必要」として、こう話す。
「昨年、英国がEUから離脱した際、国内諜報機関のMI5が世論誘導をしていたと言われるし、トランプ前米大統領もカントリーミュージシャンや俳優を使って、自身の代弁者のように世論誘導を行ってきた。他国への干渉を主目的とするロシアや中国とは別に、世界では自国の世論誘導も行われている」
井上氏によれば、日本でも政府による世論誘導は古くから行われており、話題になったところでは小泉政権(2001~06年)が行った「B層の研究」というものがある。当時の小泉純一郎首相が掲げる郵政民営化を達成するため、国民のどの層に支持を広げ、どうアプローチすればいいか、といったことなどを研究して広報活動を展開。その研究リポートが流出して国会でも取り上げられた。
そういった意味では、有事の際に特定国への敵対心を醸成するなどといった悪意のある使われ方がされなければ、これまでのアナログ手法をデジタル化しているだけ、はやりの言葉を使えば“DX化”しているだけと言えるかもしれない。
それでも第2次世界大戦で日本の軍部が都合のいい大本営発表をして暴走したように、政府による世論誘導があらぬ方向に進む可能性も完全に否定はできない。本来なら国民が“ストッパー役”となるはずだが、井上氏は「世論誘導には良い点も悪い点もあるが、大きな問題は政府のストッパーとなる国民の考えがコントロールされてしまうこと。つまり、政権を選挙で止められなくなってしまう」と指摘した。
国際情勢を見れば、全く研究しないのはリスクと言える政府の世論誘導だが、その政府の“監視役”がいない状況は制度的に暴走を生みかねない。まだ研究は始まったばかりだが、実施される場合には何らかの対策が必要となりそうだ。











